第81話

「洗濯板なんて初めて使ったわ」





笑ったら、片岡さんが首を傾げた。




「初めて?やはり雛鶴姫は、どこか裕福な家の出なのか?」




「ううん、違うのよ。私の国だともっと便利な機械があるのよ。だから」





私の国。



すんなりとそう出てきたことに、若干驚く。





いつの間にかこの状況をどこかしら受け入れている自分がいる。



私の国と言ったのは、どこかしら突き放したような言い方だわ。




向こうの世界こそ偽者で、今私がいる世界が本物。




そんな風に思えてきてしまった自分が怖い。





「そうなのか。良いな、雛鶴姫の国は」




良いな。



うん、よかった。



便利で、何でも手に入って、そういう時代だった。




ここは何もかもままならないけれど、なんだかあたたかい。





「さあ!綺麗になったわ!干しちゃいましょう!」





着物を広げて、風にはためかせる。




キラキラと水滴が、光に乗って散っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る