第76話

「お早うございます、法師さま、雛鶴殿」





にっこり笑った彦四郎さんの笑顔が痛い。


片岡さんまで満面の笑み。




すみません!と謝って、逃げ出したい。





「雛鶴殿、寒くないですか?大丈夫ですか?」




彦四郎さんが、やけに私を気遣ってくれる。



理由はわかっている。



この人たちは、私が法師さまのものになったって、信じて疑わないからだ!!


いや、元々そう思っていたのだろうけれど、今日は違う。


だって一緒に起きてきた。


そういうことだって、主張しているのも同じ。



そう思っても仕方ないの!と、自分に言い聞かせる。




「だ、大丈夫です。ありがとうございます」





ひきつった笑顔を浮かべて、彼らをかわす。



彼と別々に出てくればよかったわ。


いや、それもさらに出にくくなるわね。



みんなの温かい笑顔をうまくかわしつつ、彼の隣りに座らされる。



朝ごはんはとても美味しそうだった。




いつも作る側だったから、誰かが作ってくれるものを食べるって久しぶりで嬉しい。



竹原でも作ってくれたものを食べていたけれど、今まではなんだか余裕がなくて、感謝することも忘れていた。




彼は音もなくさっさと食べていく。




「よく噛みなさいよ、貴方。体悪くするわよ」



思わず声をかけると、むっとした顔になった。




「・・・うむ。そうするぞ」




小さく言って、ゆっくりと噛んでいる。


本当にどこかしら子供みたいな人。



素直なのか、ひねくれているのかわからないけれど、単純に純粋な感情で動いているのはよくわかる。




彦四郎さんや、片岡さんや、他の人たちも朝食に手をつけ始めた。




おかしな光景。




なんだか、男だけの合宿場に私だけ混ざりこんで生活しているみたい。



みんな年上のはずなのにな。

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