第75話

「何故お前が謝る。私が眠っている間にお前の手を取ってしまったかもしれないではないか」





いいえ、明らかに私が犯人です。



そう思ったけれど、ついつい黙ってしまった。


だってものすごく恥ずかしい。




「まあよい。それよりも朝餉だ」




すっと立ち上がる。


私もその背を追うように立ち上がった。




寒い。




夜は火鉢を焚いていたから暖かかったけれど、さすがにもう消えてしまっている。




「ちょっと待ちなさいよ、上着をはおったら?風邪引くわ」




戸を開けようとしていた彼を呼び止める。


適当に厚手の羽織を持っていく。




「いや、これはヒナが羽織れ」




差し出した羽織をさっと取って、私にかけてくれる。



薄い黒の、男物の羽織は大きかった。


温かさが広がったと同時に、彼の匂いが鼻をくすぐる。




「あ、ありがとう・・・」




ボソボソと言葉を落とすと、彼は微笑んだ。




「よい」



「よくない。貴方だって何か羽織るべきよ。ほら」




彼の背後に回って、初めて彼に着物を着せた時の様に羽織を羽織らせた。


その羽織を滑って私の瞳に飛び込んで来る朝の光が、眩い。


きらきらと、煌いている。





「温かいな」



「・・・うん」





戸を開けると、一気に冬の張り詰めた冷たい風が入ってきたけれど、彼の言うとおり温かかった。

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