第71話

「・・・慣れるわけないじゃないの。考え方も、生活も全部真逆なのよ。居場所も、ないようなものだし・・・」





慣れるわけがない。



だって自分がここにいること自体、まだ夢なんじゃないかなって思う。



もしかして、私は頭を打ってこん睡状態で、その中で見ている夢なんじゃないかって、疑っている。



そう思うことが、自分を支える希望みたいになっているのは理解している。



真正面から見なければならない現実を、歪めて見ているってわかってる。





どこかしらもう、帰れないって薄々気付いている。





「そうか」






彼が言ったのはそれだけだった。



傍にいろとか、守ってやるとか、そういう言葉を私は期待していたのかもしれない。





優しい言葉を。





だからなんだか少しだけ落胆した。



きっとこの人にとって私はお荷物なんだろう。




それはそうか。


おかしな男の人が、私を見て、「君が僕をこの時代に呼んだんだ!帰してくれよ!!」なんて言われた日には、本気で警察を呼ぶかもしれない。




呼ばなくても、煩わしいと思ってしまうかもしれない。




だって帰してくれと言われても、どうしたらいいかなんてまったくわからないし。






「必ず帰してやるから安心しろ」






それを聞いて、笑ってしまった。




「何故笑う」




ムッとしたように彼は声を上げる。





「だって、貴方って自信満々なのね。帰し方をわかってるの?」





「・・・わからぬ」




小さく彼は言った。


また笑えてくる。




「ほら」




「わからぬが、ヒナの言うことが全て真実ならば、未来の私は知っているはずだ。未来の私はお前を呼ぶのだからな」




抗うように言葉を落とす。



信じて、くれているのかな。


私が未来から来たって、この人は信じていてくれるのか。




少なくとも、彼は。





「だから、安心しろ。それまでは私の傍にいればよい」




「・・・うん」




うん。


傍に。




込み上がってくるものを、押さえ切れなくなる。




ここにいていいんだと思ったら、苦しくなった。




嗚咽を必死の思いで噛み殺す。


はたはたと、唐紅の上に涙が散る。




泣くな、と思ったけれど、もうどうしようもない。

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