傍に。

第70話

「何色?」




「からくれない。紅花で染めた鮮やかな赤だ」





さっき見た、夕日の色。



唐紅。




燃えるような、赤。



瞳を閉じてもなお、滲むような、赤。





それにしても、エロい。




いいえ、私の考えすぎかしら。



真っ赤な敷布団って、何だかエロいわ。



敷布団と言っても、この時代の布団は現代のものとは大違い。



畳を板間の床に一枚出して、その上にしとねと呼ばれる布を引いて寝る。



綿なんて入っていないし、実際は畳の上で寝ているようなものだわ。





「さて、私はもう寝る」





その言葉に驚いて、思わず息を飲む。


私の仕草を目ざとく見つけて、彼は意地悪く笑った。




「何もせぬ。お前ももう寝ろ」



「い、言われなくても寝るわよ!寝るわ!」




考えていたことを見透かされたような気がして恥ずかしくなる。


唐紅の敷布団の上に横になって、彼に背を向けて掛け布団を羽織った。




なんでこんなことになっているかわからない。



夕方に来ちゃだめだった。



山間の村は日没が早い。


あっと言う間に日が暮れた。



真っ暗になって、帰れなくなってしまったのだ。


送っていってくれると彼は言ったけれど、竹原に戻ったところで彼はきっと竹原に泊まることになると思う。




それくらい、闇が深い。




普段、夜でも明るい場所で生活したから、驚くほど闇が深い。




だったら泊まっていくから空いてる部屋を貸してと兵衛さんに言ったら、春に祝言を上げるなら同じ部屋でもいいではないかと言われてしまったのだ。



ここで拒否したら、バレると思った。


偽装だって言うのが。




彼はそうしろと言って笑うだけだし、もうどうすることもできなかった。





ふっと音を立てて、蝋燭が消える。




世界は、一気に闇の中に落ちた。






「・・・もうこの時代に慣れたか?」





静寂の中で、彼の声が響く。


傍で寝ていると言っても、互いが手を伸ばしてようやく触れられる距離だった。

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