第66話

「別に何もしていないわよ。包帯を替えていただけよ。片手で包帯巻くの大変でしょう?」



「そ、その通りです。雛鶴姫のご好意に甘えてしまい大変申し訳ありませんでした」





片岡さんは、法師さまに向かって平謝りする。


突然片岡さんは、『姫』だなんて呼ぶから、ムッとした。



だから私はそんな大そうなものじゃないのに。





「なんで片岡さんが謝るのよ。何も悪いことしてないじゃないの。それより貴方ね、そんな態度やめなさいよ。何を勝手に怒ってるのよ。友達無くすわよ!」






彼の態度が気に入らなくて、噛み付くように詰め寄る。




この男、本気で何様のつもりかしら!




途端に彼はバツが悪そうに瞳を歪める。




「ひっ雛鶴姫!!」




驚いたように片岡さんが声を上げる。





「何よ!何で私が姫なのよ!!あのね、私はお姫様なんかじゃないわよ。恥ずかしいわよ!それよりね、私、貴方に文句を言いたくて来たのよ!」





ああ、もう止まらない。


こんな自分嫌だ。




私こそ何様のつもりだ。





「しげちゃんのお兄さんに適当なこと言わないでよ!何よ、春に・・・春にっっ!!!」





ぼろぼろと涙が散った。


気持ちが高ぶって、どうしようもなくて、涙が溢れた。




悲しかったわけじゃない。



辛かったわけじゃない。





泣くつもりはなかったのに。




突然湧き上がった衝動に勝てない。


こんなにも情緒不安定なのだと知る。





悲しみは、倍になる。


寂しさは、津波のように襲いかかる。






ああ、そうだ。




どこかしら、



どこかしら、寂しかったんだ。






なぜか怒った彼を見て、より所を失った気分。



よりどころ?




私、何を思っているのかしら。

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