第65話

「これね。切り傷に効くのね」




「ああ」




片岡さんの声を聞いて、やっぱり切ったのかと思う。



そんなに物騒なのかな。




そういえば朔太郎さんも戦がどうこう言っていたし、色々あったのかもしれない。




私には理解できない、本の中のようなことが現実にここで起こっているのだと知る。



この傷は、それを物語るのに十分。






薬を塗って包帯を巻く。



片岡さんは包帯を巻き終わるまで、その白を黙ってじっと見つめていた。





「はい、終わり。今まで使っていた包帯、洗っておいてあげるわ。また使えるでしょ」




「・・・とう」




ぼそぼそと呟く。




「え?」



上手く聞き取れなくて聞き返すと、片岡さんは頬を赤く染めた。





「ありがとう。」





あら。



あらあらあら。




なんだか嬉しくて堪らなくなる。



心を開いてくれたみたいで、はにかんで笑ってしまう。





「いいのよ、べつに・・・」





「何をしておる」





私の声を遮って届いたのは、冷たい声。




はっとして声がした方向を向くと、彼が立っていた。




一瞬、彼だと思えなかった。





「何をしておるのだと聞いている」





纏うオーラが違うと言えばいいのか。


いつもと違う雰囲気。



ピリピリとした、張り詰めたオーラ。



狼が獲物を狙うときみたい。






怒っているのはすぐにわかった。

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