第64話

「・・・やっぱり膿み始めてるじゃないの」



「あ、ああ」





包帯が傷口にくっついてしまっている。



片岡さんは、こんなに悪くなっていると思っていなかったのか、目を見張って自分の傷口を見つめている。



見ているだけで痛そうだわ。





「バカね、こんなことしてたら腕が腐るわよっ」



「っっっっつ!!!!」





『わよ』で、思い切り包帯を引く。



不意打ちで走った痛みに、片岡さんは身悶えしている。




こういうのは一気にやったほうがいい。




やるよ、やるよ、なんて言ってると、しり込みするのは確実。


頼人がよく絆創膏剥がせなくなって泣くから。





あら?目に涙溜めているわ、この人。





「泣いちゃダメよ。痛いのはしょうがないでしょ。放っておいた貴方が悪いの」






綺麗な水で傷口を洗う。



何かしら、この傷。


何か鋭利な刃物ですぱっと切られたかのよう。




転んで付いたような傷じゃない。



現代でもあまり見ないような、傷の形状。





「泣いてなどいない」




片岡さんは、痛みを堪えるようにして言った。


強がりだわ。


若干呆れて笑う。



痛いなら痛いって、言えばいいのに。





「笑うな」




「ごめんね」




ついね。


大の大人がって思ったら笑えてきてしまった。





「大分塞がってきてるけど、無理しちゃだめよ。必ず毎日包帯を替えて薬を塗るのよ。あれ、どれかしら」




薬の壷が並んでいるけれど、薬の名前が書いてあるわけではないからどれがどれかわからない。


まず私にはどれがどれに効く薬かもよくわからないけれど。



片岡さんは、適当に薬壷を開けて中を見ていく。




「これだ」




短く言って差し出す。


黄色いそれは、いかにもと言うような塗り薬だった。

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