第63話

「お前、いい気になるなよ」





その言葉に、またカチンと来る。




「いい気になんてなってないわよ。どういうことよ」




「み、・・・いや、法師さまから寵をいただいているからとて、いい気になるなって言ってるんだ」





少し恥ずかしそうに瞳を伏せる。





「ちょう?」





首を傾げると、え、と言うように片岡さんの眉が歪む。




「ちょうって、蝶々のこと?そんなものもらった覚えはないわよ。もらったって嬉しくないし」




殺して標本にするのも嫌だし、もらったって逃がすしかないじゃないの。




困った、と言うように片岡さんは首筋を掻いた。





その腕に包帯が巻かれている。



薄汚れて、頻繁に替えていないのはすぐにわかった。





「やだ。貴方、怪我しているの?包帯替えてるの?汚れてるわよ」




「いい。別に」




「いいわけないわ。膿んだらどうするの。衛生的に悪いわよ。ちょっとこっちに来なさい」





ああ、また悪い癖。



人のことばっかり気にしてしまう。





「おっお前っ!!」





怪我をしていないほうの腕を掴んで、ずんずん歩いて行く。





「兵衛さあん!!」




声を張り上げると、奥からひょろりのおじさんが出てきた。




「おや、ちづではないか。どうしたのだ」




「あのね、包帯とか傷薬ないかな?あったら欲しいんだけど」




「ああ、あるぞ。使いなさい」




そう言って、兵衛さんは薬箱を渡してくれた。




「手を離せ」



「うるさいわね。水道はどこよ?水道は」




「すいどう?」




す、水道まで伝わらない!!!



思わず愕然とする。





「み、水場・・・井戸はどこって言ったの・・・」





嘘でしょ。


水道って、そうか昔はなかったのか・・・。




「こっちだ」




今度は逆に引っ張られるようにして連れていかれる。


この人、背が高いな。




法師さまは着ているものとかでお坊さんだってわかるけど、この人や彦四郎さんは普通の格好をしている。




普通の格好って言っても、こっちの時代の男の人が着るような着物だけれど。




一体何者なのかしら。

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