第59話

言葉が落ちなくて、酸素の足りない金魚のように口をぱくぱくしていると、正吾さんはふわりと笑った。


本当に、触れたら壊れそうな、そんな儚い笑顔で。





「真剣だったぞ。良かったな、ちづ。春になったら都に行って祝言をあげるそうだな。めでたいな」






一気に思考回路が停止する。



でも、考えなければ何も始まらない。





しゅ、祝言ってナンデスカ!!!!!



いや、歴史に疎い、古文がちんぷんかんぷんな私でもわかる!!!






何で勝手に結婚するとか言ってるのよ!!!!



私、一言も聞いてないし!






「やだっ!!!ちづちゃん!!!よかったわねっっ!!!おめでとうっ!!!」




違う違う違う!!!!!


心の中で全力で否定しても言葉になって出てこない。




「父上にも言っておいた。父上も喜んでおったぞ」




だっダルマのお父さんにもっ??!!!



なんで言うのよっっ!!!!と、今にも正吾さんに詰め寄りそうになって堪える。



ぐっと。





「法師さまたちがいる兵衛さんの家は、この竹原の家と親戚関係だからな。どちらでもいいから寝泊りしなさい」




この人、柔そうな顔をしてなんてことを言うのか。


思わず脱力する。




「ちづちゃん、兄様にどうかなってサクちゃんと言ってたのにね。残念だわ。」



しげちゃんがにやにやと笑って言った。


そういえばそんなことを言っていたのを思い出した。




兄様って、この人のことだったのか。





「そうだな。ちづに決まった男がいなかったら名乗りをあげたかったがな。まあ、めでたいことだ。身を引こう」




私がどうとか、微塵もそんなこと思っていないくせに!!!



なんで話しがそんなに飛躍しているのよ・・・。





「わ、私・・・私ちょっと出かけてくる・・・」




声が震えていた。


もう、体の機能が制御できない。




「どこへ?」




「ちょっと!!!」





構ってられずに走り出す。


あの男!なんてことを言うのかしら!!!




「法師さまのところでしょ~?気をつけてね!」




しげちゃんは笑いながら言った。




もうなんだか恥ずかしすぎて泣けてきた。



もうっ!!




もうっっっ!!!!

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