第57話

「そうよ。まあ、結婚したりする人もいるしね。大丈夫よ、ちづちゃん。そんなにがっかりした顔しないで」




「し、してない!してないってば」





「しげ」




全力で抗って叫んだ私の声を遮るように、耳に届く声。




柔らかい、声。



聞いたことのない、声。





はっとする。





振り向くと、その声と同じ位柔らかい雰囲気の人が立っていた。





「兄様」





え?



思わずしげちゃんの顔を見る。



兄様?




しげちゃんのお兄さん?





「そなたが千鶴子、か?」





声まで柔い。



まるで、雪の一片みたいな人。




そっとこの手で触ったら、溶けてしまいそうなほどの脆さを感じてしまう。




「は、はい・・・」



頷くと、しげちゃんのお兄さんは、にっこり微笑んだ。


その笑顔も儚い。




それにしてもしげちゃんと似ていない。


兄妹と言わなければわからないわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る