第56話

「お父様は、ここら辺一体を治める長なのよ。兵衛おじさんもそう。兵衛おじさんは竹原の親族だから。『竹原』の家は他と別格。あたしはね、若衆組の男に抱かれようと、どんなに好きだろうと、お父様の決めた人と結婚するのよ」




政略結婚。



家のために、結婚するのか。





「あたしももう年頃だしねっ。お父様はあたしを使って、十津川のためになる繋がりを作りたいの。そういうものなのよ」





しげちゃんは笑った。


何か言おうと思ったけれど、言葉が出てこなかった。





そんなの、私の時代じゃ考えられないよ。





好きな人とお付き合いして、好きな人と結婚する。



それが当たり前だと思っていたのに。





「・・・ちづちゃんはいいのよ。法師さま、ちづちゃんのこと大好きみたいじゃないの」






しげちゃんが、にやりと笑った。



それを見て、一気に顔が赤くなる。




「だっ大好きって!!!」





「だってそうでしょ?もう噂になってるわよ。ちづちゃんに手を出すと呪い殺されるって」






の、呪い殺される。


昨日のことを思い出して、少しひやりとする。



ケラケラとしげちゃんは笑った。




「あっあれはね!!」





誤解なの、と言えば、またおかしなことになるのは目に見えていた。


多分私の言ったことはしげちゃんから朔太郎さんに全て伝わる。




朔太郎さんは若衆組のNO・2だ。


確実に若衆組全てに伝わるも同じ。





「いいわよね~。村の娘は失望しっぱなしよ。ちづちゃん、女の子に嫌われるわね」



違うと、何も言い返せない自分が憎い。





「まあ大抵出家者は結婚できないから、ちづちゃんも大変だけど」





しげちゃんは意地悪く笑う。




「えっそうなの?」




思わず声を上げる。



上げてからぎょっとした。





なんで私、結婚できないって知って、ショック受けてるのよ!



彼が結婚しようがしないが、そんなの関係ないじゃないの!!

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