組頭

第55話

「女の子のいる家だと、夜戸締りするとき鍵をかけないのよ。かけちゃダメなの」




「どうして?」





「だって、若衆組の人が家に入って来れないじゃないの」




「入ってこれないって、もしかして玄関から堂々と入ってくるとでも言うの?」





私が真剣に言ったのを聞いて、しげちゃんは笑いだした。





「堂々と入ってくるに決まってるじゃないの。夜這いって言うのはね、玄関から上がってこなきゃどこから入ってくるって言うのよ」




「・・・窓?」





しげちゃんはゲラゲラ笑い出した。



お腹を抱えて、本気で大笑い。




それを見て、だって知らないんだもの!と心の中で叫んだ。





「泥棒じゃない。そんなんじゃないのよ。とにかく、娘がいる家で玄関の鍵をかけて戸締まりなんてしたら、若衆組に逆らったことであとが怖いわよ。家の存続にかかわるわ」



「そんなのさ、娘を若衆組に捧げることで家を守ってもらってるようなものじゃないの。何ていうの?神様にお酒とか食べ物とか捧げるような・・・」





「ご供物ね。その通りよ。娘を抱く代わりに、家を守ってもらうようなもの」





何ていう世界よ。



こんなの現代社会じゃ本気で考えられない。





確実に警察沙汰。





それよりも、私の元に通ってくる男はいるのか不安になる。


この時代だとまだ物珍しさも手伝うからいいけどさ。




うん、確実にいない。






「それより、しげちゃんと朔太郎さんってすっごい仲良しじゃないの。なんで駆け落ちなんてしようとしてたのよ?」






しげちゃんは少し瞳を伏せて、唇を尖らせた。






「・・・お父様が、大反対なのよ」





「え?」



ダルマのお父さんが?




「サクちゃんの家は、ごく普通の家。あたしの家は、他と少し違うのわかるでしょ?」




「・・・違うって、大きさ?」




確かにしげちゃんちは大きい。




周りの家と比べても大きい。


メイドさんのような人もいるし、明らかにこの家に働きに来ている人が沢山いる。




しげちゃんは苦笑いしながら頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る