第54話

「・・・ねえ」




静寂を破ったのは私だった。



このまま朝が来るまで、彼の瞳の灰白の光を見つめていてもよかったのだけれど、どうしても不安になることがあった。





「・・・なんだ」




答えるくせに、私を見ようとしない。


傍で座っているだけ。




指一本触れてこない。





「貴方、結果的に若衆組に逆らったけれど、大丈夫なの?」




私をかばってしまって、貴方が悪いことにならない?


そう尋ねると、ようやく彼が私を見た。





「別に私には怖いものなどない」





怖いものが、ない?


それはどういう・・・





「ここに定住する気もないから、安心しろ。私は半年ほど留まるだけ。彼らもそれを知っているからとやかく言うこともないだろう」





定住する気もない。


それを聞いて、どういうわけかまた不安が湧き上がる。



そうだった。




この人はいつかここを出て行く。




私だって元の時代に帰る。





平行線。


絶対に、相容れることなどない。





そう思ったら、何だかものすごく寂しくなった。



どうしてそう思ったのか全くわからなかったけれど。





寂しくなることなんてないのに。


帰るのは、私の一番の願いなのに。




一刻も早く、元の時代へ帰りたいと思うのに。





「・・・そんなに心配するな。必ずお前は元の時代に帰すと約束するぞ」





小さく頷いた。



今度は私がその瞳から逃げるように俯いていた。

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