第53話

「に、日本中、こんな感じで自分の夫や妻を決めるの?」




「そうだな。北のほうは違うらしいが、西方はほとんど太古の昔からそうだ。と言っても、ここのような農村の話しだ。武士や貴族たちはまた違うのだがな」




一般庶民は、太古の昔から。



タイコのムカシ。



嘘だ。





嘘だ!!





私の知っている歴史常識なんて通用しない。




ここは一体何時代なのよ!!!






「ヒナの時代は違うのか?」






パニックを起こしている私に向かって彼は言った。




「違うわよ。少なくともこんな夜這いの習慣なんてないし、若衆組もないわ。初めから肉体関係がどうとかないわよ」




「そうか。お前の時代の男はつまらないだろうな」




確かにつまらないかもしれない。


エロに関してやりたい放題していても、それが普通ならば、羨ましい人もいるだろう。




「私もそう思うとつまらない人生だったな」




あ、そうか。





「お寺にいたから?」




「そうだ。若衆組に入ったら、もっと面白く過ごせただろう」




そう言って笑った。


心の底からそう思っていないのはすぐにわかった。




「冗談言っちゃだめよ」




小さく咎めると、彼は声を出さずに微笑んだ。





「そうだな。私には私のやることがあるのだからな」








月明かりに照らされた、彼の影がゆらりと揺れる。



畳が軋む音が、辺りに響く。




衣擦れの音だけして、すっと彼は私の傍に座り込んだ。




その目は私を見ようとせず、景色ばかり映そうとする。





唇は、真一文字に引き結ばれ、開くことはないまま時間だけが淡々と過ぎて行った。

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