第49話

「・・・本当か?」




男は私に向って尋ねた。


私は必死で何度も頷く。





「なんだよ。そうならそうと言えよな」






悪態を吐きながら男は私から離れ、勢いよく戸を開け放す。






灰白。





狼が、男を睨み付けている。





やっぱり。




やっぱり!!!







「・・・女にうつつを抜かしてちゃ、その加護も薄れるんじゃねえの?法師さま」






嘲笑。


思わず私がムッとする。





「お前が心配することではない。お前を呪い殺してやってもいいのだぞ?薄れるくらいでちょうどよいだろう」





涼しい顔をして、彼は言った。



やっぱり彼はどことなく違う。


まとう雰囲気が、どこかしら。





それを感じ取ったのか、逆に男がうろたえる。






「わ、わかったよ。あんたの女ならもう手は出さねえよ」





「お前の仲間にも言っておけ」






ジロリと男を鋭く睨み付ける。


男は3回くらい頷いた。




「わかったって!!」




「早く失せろ」





低く彼が言ったのと同時に、男は駆け出して闇の奥に消えた。





後に残ったのは、耳が痛くなるほどの静寂だった。







「・・・無粋だったか?」





遠慮がちに彼は小さく言った。


囁くようなのに、よく通るその低い声で。




何が?と尋ね返そうとしたが、声が出ない。


そんな私を見て、彼はもう一度口を開いた。





「止めぬほうがよかったか?」





それを聞いて、首を大きく振る。


涙が、ぱたぱた音を立てて畳に落ちる。





「・・・ならば良かった。もしや、と思って来てみたのだ」





彼がそう言ってふいに背後を振り向いた。


じっと闇の奥を見つめて黙る。






「先客か?」



「悪いな、先客だ」






闇の奥からまた別の声がして、彼は淡々と答えた。


その声は軽く舌打ちを一度して、闇の中へ戻っていった。

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