第45話

「え?」




「例えば、その火事が起こったときに、逆らった家の火は消さない、とか、上手いこと火をその家に導くとかね。特にここは名物のように山火事が起こるから、火事は死活問題なの」




そうか、それじゃあしげちゃんの言うとおり、死活問題だ。




まるで、神様みたい。



神様に逆らうと、罰が当たるみたいな。







「しげ」




その声で、はっとして目を見張った。



顔を上げると、誰か立っている。





「サクちゃん!」





飛び跳ねるようにしげちゃんは立ち上がった。



それだけでピンと来る。





「あんたか。狐にばかされて記憶失った女って」




「こ、こんにちは。桜井千鶴子です」





「朔太郎。みんなサクって呼ぶ。あんたのこと、『雛鶴』だって?」





は、早い。




エロ法師をぶん殴っちゃったけど、あの人、怒っているかな。


しげちゃんにそっと近づいて呟く。






「・・・しげちゃんの駆け落ちの相手ってもしかしてこの人でしょ?」




「うん・・・。素敵でしょ?さっき話した、若衆組の副頭よ」






副頭。



若衆組の中でもNO・2ってことか。





たしかに、自信に溢れていて、きりりと太い眉が素敵な人。


健康的に焼けた肌が、冬であっても男らしさを強調する。



たぶん、私やしげちゃんと歳はそう変わらないと思う。




「今ね、若衆組についてちづちゃんに教えてたのよ」




「俺たちについて?何を教えるんだよ?」




「いろいろとね。ちづちゃん全部忘れちゃったみたいだから。サクちゃんからも教えてあげて」





「なるほど、大変だな。まあ今もさ、他の連中にちづのことを見て来いって言われたんだよな。皆興味津々だ」





ぎょっとした。


確かに、狐にばかされた女なんてなかなかいないから興味津々だろう。


ばかされてなんかないけれど、この時代の人間とは違うのは確かだ。

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