第44話

「ちょっと聞いたわよ、ちづちゃん。お尻触られたくらいでお嫁に行けないですって?」




ぶすっとしながら庭の雑草を抜いていた私に、しげちゃんが声を掛けてきてくれた。



「行けないわよ。もう」




あんなの尻の大きい女って言われたようなものだわ。



確かに私は胸よりも尻のほうが大きいわよ。




吐き捨てるように言うと、しげちゃんはおかしいと言うように笑った。





「何を言ってるのよ。いいじゃないの、あの法師さまとても素敵じゃないの。村の娘なんて浮かれてるわよ」



「ただのスケベ法師よ」




「ちづちゃんって面白いわね。男が嫌いなの?」





しげちゃんも私の隣りにしゃがみ込んで、雑草を抜き出す。




「嫌いってわけじゃないわ。別に」




「だったらいいじゃないの。そんな事だと家が大変よ」





しげちゃんが笑いながらそう言ったのを聞いて、昨日の事を思い出す。


あのエロ法師が、私が好きな人としかそういうことしたくないって言ったときに、やけに家のことを心配していた。




「その『家が大変』ってどういうことなの?」




尋ねると、しげちゃんは目を見張った。






「・・・そうよね、ちづちゃん記憶ないんだものね」




「う、うん。いまいちよくわからないの。教えてほしいな」






嘘を吐くのは若干気が引けたが、その意味をどうしても知りたかった。





「・・・あのね、こういう小さい村には『若衆組』って言うのがあるのよ」





「わかしゅうぐみ?」




「そう。村の若い男の人が、村を守るために作った集まりのこと。大抵の村だと、一定の歳になるとその若衆組に男の人は必ず入るのよ」






自治集団ってことかな。




確かに、見たところこの時代は、警察官なんてものは大きい都市だけだろうし、村を守るのは実質そう言った村の若い男の人だろう。





「例えばここは山に囲まれているけれど、山火事なんて起こったら本当に怖いのよ。そういうときに、率先してその若衆組が火を消してくれたりするの。隣り村と争ったりしたときは、その人たちが武器を持って戦ってくれるのよ」




やっぱり自治集団。


なるほど。






「だから、若衆組に逆らうことは、家の存続にも関わるの」






そう言ったしげちゃんの目は、驚くほど真剣だった。

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