第36話

「ちづちゃん、そうと決まれば早くあたしの家に来なさい。服を貸してあげるわ」






しげちゃんはにっこり笑って私の手を取った。



何ていい子。




嘘を吐いてごめんなさい!!




心の奥でそんなことを叫びながら、しげちゃんの力に従った。






「待て。念のため、今から調伏する」







立ち上がった私に向かって、彼は唐突にそんなことを言った。




「そうね、ちづちゃん。早く記憶を取り戻すためだものね。あたし待ってるから行ってきなさいよ」





「すぐに終わる。来い」





短く言って、彼も素早く立ち上がる。



そして私の腕を掴んで、強引に別の部屋まで足早に歩いて行った。







ぱたんと音を立てて、戸が閉まる。




声のトーンを落として、私は口を開いた。






「・・・何よ。上手く行ったでしょ?」






彼は腕を組んで少し考え込んでいるようだった。







「うむ。お前はなかなか演技が上手いな」







誉められたのか何なのか。






「そんなことはいいのよ。私も貴方がいてくれないと自分の時代に帰れないから」





「わかっておる。それよりも昨日つい弾みで私の名を名乗ってしまった」







「それが何なのよ。貴方の名前ってそんう・・・」







途端にその冷たい手で口を塞がれる。




だからなんでこの人こんなに手が冷たいの!!








「それはある意味、諱だ」







いみな?




何それ。



どういうことよ?!

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