暴露

第26話

指先まで、溶けてしまう。



熱さでくらくらと、溶かされてしまう。




上がる息が、真冬の冷気にさらされて真っ白く染まって見える。






ああ、もうだめ。



もう何も考えられなくなってしまう。



思考回路が解けて、


煩わしいことも、何もかも、考えられない。






「もうやだ!もう疲れた!!!お願いだからもうやめてよ!」




「何を言う。まだこれからが本番だ」





「本番ってもう十分体温まったじゃないの!!運動したでしょ?!」



「そう言われるとそうだな」




ムッと少し顔をしかめて、彼は言った。



私は振り上げていた拳を下ろして脱力する。



投げ飛ばした座布団やらが、バラバラと部屋に散らばっている。



それを見つめながら、溜息を吐く。




素直なんだかなんなんだか。



心拍数が収まらずにばくばくと耳元で音を立てている。





「寝る」





短く言って、彼はその場に横になった。



だからこの人は!!




「貴方ねえっ」




「ヒナはなぜそんなに動きが早いのだ」




荒げた声に、よく通る声が覆いかぶさる。


思わず口をつぐんだ。




「上手くいかぬ。なぜお前を捕らえられない」




横になったまま、彼は小さくなってそう言った。





「私はお前を抱きたかっただけだ。なぜ逃げる。別によいだろう、一夜くらい」






だから、この人は。




さっきまで私は身の危険を感じて、逃げ回っていた。




物を投げ飛ばし、殴る蹴るの追いかけっこ。




実は私、勉強よりも運動が好き。



すばやさには自信があったし、体力にも自信はある。




この人も何だか途中から楽しんでいたと思ったけれど。






「・・・何箇所引っかいたと思っているのだ」






その言葉にうっと思う。


確かに引っかいた。




愚痴愚痴と、さらに小さく丸まって彼は呟く。



思い通りにならない私に、いじけてしまったのか。





本当に大きい子供みたい。

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