第24話

「『ヒナ』って、もう一度、呼んで」





訝しげに歪んだ眉が、緩んで、笑う。



柔く、微笑む。




私の腕を掴んでいた手が、静かに離れて、私の頬に触れる。




その指先に冷たさに、背筋が凍る。





この、手。







「何度でも呼んでやるぞ」






あの時、私を連れて行った手。




その手が頬から滑って髪に回る。





彼の瞳に、月が映っている。


その真円に、のまれてしまいそう。






「ヒナ」






途端に胸の奥がどういうわけか切なくなる。





「ヒナ」





この声。





この声だ。






その灰色の髪が、彼の肩から零れ落ちるのを見た。



まるで砂をサラサラとこぼすかのよう。





静寂の世界で、ただ聞こえる美しい音色。






切なさが、理由もなく込みあがる。






「ヒナ」







どういうわけか、涙が出そうになった。



ここに私を呼んだのがこの人ならば、きっと私を元の場所に返す術も知っているだろう。




そう思って、安心した。




家族の元へ帰れると思ったら、押し込めていたものが溢れて泣き出しそうになった。






「なぜ泣く」






その言葉に現実を取り戻す。



取り戻した時、一体何が起こっているのか全くわからなかった。

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