第24話
「『ヒナ』って、もう一度、呼んで」
訝しげに歪んだ眉が、緩んで、笑う。
柔く、微笑む。
私の腕を掴んでいた手が、静かに離れて、私の頬に触れる。
その指先に冷たさに、背筋が凍る。
この、手。
「何度でも呼んでやるぞ」
あの時、私を連れて行った手。
その手が頬から滑って髪に回る。
彼の瞳に、月が映っている。
その真円に、のまれてしまいそう。
「ヒナ」
途端に胸の奥がどういうわけか切なくなる。
「ヒナ」
この声。
この声だ。
その灰色の髪が、彼の肩から零れ落ちるのを見た。
まるで砂をサラサラとこぼすかのよう。
静寂の世界で、ただ聞こえる美しい音色。
切なさが、理由もなく込みあがる。
「ヒナ」
どういうわけか、涙が出そうになった。
ここに私を呼んだのがこの人ならば、きっと私を元の場所に返す術も知っているだろう。
そう思って、安心した。
家族の元へ帰れると思ったら、押し込めていたものが溢れて泣き出しそうになった。
「なぜ泣く」
その言葉に現実を取り戻す。
取り戻した時、一体何が起こっているのか全くわからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます