第23話

やけに笑うから、ムッとして口を開く。





「貴方の名前は?」




私が名乗ったんだから、名乗りなさいよ、と思って尋ねる。



彼は一度、声を出さずに微笑んだ。


私をじっと見つめて。




その笑顔に息を飲む。





やっぱりこの人、眉目秀麗。






お坊さんにしておくのもったいない位、綺麗な顔立ちをしている。






「・・・尊雲」



「そんうんさん?」




おかしな名前ね、と言おうと思って口をつぐむ。


お坊さんなのだから、大抵そんな名前だろう。






「そうだ。それよりお前、大層な名をもらったものだな」




「何それ。どういう意味?」






ムッとして眉を歪める。






「お前は『鶴』を名乗るには早すぎる。まだせいぜい雛鳥だな」






まだ早いって!



怒りが沸々と沸いてくる。


彼は私のそんな反応を見て、にやにやと笑いながら見下ろしてくる。




い、意地が悪い!!!





私たち、初対面じゃないの!




まるでいじめっこの小学生!






この男、何て性格悪いのよ!!!







「早いってあんたねえ!!」



「ヒナはおかしな着物を着ているな。どうやって脱がすのだ」







『ヒナ』







その言葉に息を飲む。




頭の奥に残る、あの声を思い出す。




心拍数が急上昇する。


指先までガタガタと震え出す。





「も、もう一度・・・」





声を上げた私を、訝しげに見つめる。







「もう一度、呼んで」







もう一度。



胸の中に未だ残る疑念を吹き飛ばして、


確固たるものにするために。

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