第21話

「お前のお陰だ。礼を言う」





「えっ?!」




まるで思い通りにいったと、言っているかのよう。



不敵に笑ったまま、彼はその瞳を開けた。






月の光がその瞳に反射して灰色に映る。



オオカミだ、と思って時が止まる。






綺麗な、狼。






目が奪われて、離れない。







「もう、狐は憑いていないだろう。人間に戻っているはずだ。この私自ら祈祷してやったのだからな」







それを聞いて、はあっ?と思う。


き、キツネ?!!




このご時勢にキツネ?!!





一気に気が抜けたが、それを言っても、私の時代の常識が、ここではまるっきり通用しないのが何となくわかった。





「・・・あの、私何もしてないけど・・・」





ぼそぼそと言うと、彼は笑った。





「今日の宿が確保できた。外で眠るのはいささか寒くなってきてしまったからな」





外って、この人たち野宿しているのかな。



お坊さんだから修行中なのか。


それでも大変そう。



野宿なんて考えられないわ。






それよりも、さっき『この私自ら』って、この人は言った。




もしかしてこの人ってお坊さんの中でも大分偉い人なのかしら?





もしかしたら、私を元の時代へ返す術とか知っていないかしら?





そう思ったら、弾かれるように顔を上げていた。







もしや私の唯一の希望?!






期待を込めて口を開こうとしたら、彼はさっさとそこらへんに横になっている。




いつの間に?!と思う早技で。






「・・・あの?」




「なんだ」






あれ?フローリングって何ていうんだろう。



確実に横文字を吐いたところで伝わらないような気がする。





「どうした」






一向に言葉を落とさない私に、苛立ったように少し体を起こす。






「こ、こんな固いとこで寝たら明日体痛くなるし風邪引く。オレンジ色の服を着た人たちと寝たら?」






「おれんじ?」






しまった、と思う。



やっぱり通じない。




オレンジ色って、古い日本語で何て言うんだったかしら?!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る