第18話

突然人の気配を感じて、振り向く。



感情を失うと、後に残されるのは本能。






白い、月の光が揺れる。


あの時見た、鳥居の色と同じ、氷色。





凍てつく程の、青白さ。



ううん、もっと張り詰めた色。




灰に白みがかった色。





その二つの目が、その光を受けて光る。









「誰だ?」





灰の前に立ちはだかって、傍にいた別の人がそう言った。


近づいてくるのをぼんやりと見つめる。





その姿を見て、堪えきれないほどの絶望感が襲った。





自分の体すら支えられずに、その場に崩れ落ちる。






「おい?!」





道端にいた、数人の男の人たち。




全員、着物を着ていた。



みんな時代劇。





ああ。



ああ!!






「いやあああああああああっっっ!!!!」






発狂する。



大声を上げた私に向かって、その氷色の腕が伸びてくる。





「案ずるな」





どういう意味?


安心しろ、と言う意味?





「すぐに楽にしてやる」





自分の意思とは無関係にガタガタと震える体を、氷色に押し付けるように抱きしめられる。




冷たい。



何も温かくなんてならない。






私は鎌倉にいたはずなのに。






元弘元年師走。



大和の国。



小袖。着物。


ありえない衣装。







タイムスリップ。







抗いようのない、事実。

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