絶望

第13話

「あ、起きたわ」





瞳を開けると、また瞳。



大きな、猫目。




ほんのすぐ傍にあって、思わず悲鳴を上げそうになって口を塞ぐ。





「貴女、どうしたの?道端に倒れてたのよ。見ない顔だけどどこの人?」





にっこりと大きな口を横に広げて、彼女は笑った。





「どうしたんだろ・・・」






間抜けな答えを返した私に、その子は大口を開けて笑い出した。





「貴女、頭でも打ったの?!貴女のせいであたしの計画がめちゃくちゃになったんだから責任取ってよ!」




「計画?」




思わず眉を歪めると、その子はため息を吐いた。





「そ。あたし駆け落ちするつもりだったのにさ。貴女が倒れてるんだもの。見捨てられるわけないでしょう?」




「かっ駆け落ち!?よく考えなさいよ!駆け落ちするくらい好きなの?!」





「決まってるじゃないの」





ムッとしたように、その子は眉を歪める。


それを見て、ああそうよねと理解する。





「・・・そっか。そりゃあそうか。それくらい好きじゃなければ駆け落ちなんてしないものね」





それにしても、このご時勢まだ駆け落ちとかあるんだ。


この子、私と年が変わらないと思うのに。





「わかればいいのよ、わかれば。どうせいつだって駆け落ちできるし」





大して気にもしていないと言うように笑った。



さばさばしている。




ああ、そうだ。


月子に、似ているのかもしれない。





そう思ったら、唐突に家族を思い出した。





「取り合えず、助けてくれて本当にありがとう。改めて御礼に来るわ。家族が待ってるから帰ることにする」





私、倒れていたって、一体どうしたんだろう。




何だか頭の奥がぼんやりして、上手く思い出せない。



ただ帰らなければとだけ思う。






掛かっていた布団を剥ぎ取る。




一瞬で、凍てつく寒さが足や手に走る。





思わず身震いする。



あれ?




確かさっきまで夏だった、はずなのに。






夢?



でも、どちらが?






ようやく不安が芽を出して、一気に生い茂る。



そう言えば、私、あの白い鳥居の前で冷たい左手に掴まれたんだった。




氷色の鳥居の前で。





そして、どこかへ落ちていった。



大和と共に。

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