第12話

お父さんは、私の手を取る手首より下だけの手を見て、真っ青になっている。




太一兄ちゃんも、呆けたまま突っ立っている。




皆きっと、何が起きているかわからない。


私だってわからない。



わからないけれど、切なくなる。





この手に触れていると、何だか泣き出したくなる。




理由なんて、これっぽっちもわからないけれど。







《ようやく、見つけた。》







え?



はっきりと聞こえる。





あの声の主はこの手の主と同一人物だと確信する。





「貴方は、誰?」






《お前は私を忘れたのか?腹が立つ。七百年も、待ったと言うのに。》






「忘れたも何も、知らないもの」






《私は知っている》





知っている?


私を?





「ね、姉ちゃん・・・手首と話してるのかよ?!!や、やめろよ!お前!!やめろ!!」






大和は私の空いたほうの手を引いて、その手から逃れさせようとするけれど、どうしたってその手は私から離れることはない。



強く握られているわけでもないのに。







《七百年。あの時交わした約束を、叶えようぞ》








その声が聞こえた瞬間、足元から崩れ落ちた。


私はすでにしゃがみこんでいたというのに。





あっと言う間に。




「あ・・・!!!!」





叫んだと思ったときにはすでに、声は上の方へ置いてきたかのようだった。





暗闇の中を真っ逆さまに堕ちていく。




恐怖が、足先から、髪の先へとさかのぼるように這っていく。



思わずその不快感に目をキツク閉じる。






「ちづ姉!!!!」






叫び声ではっと目を開ける。



大和が見えた。




大和の体も、その闇の中に捕らえられる。



私の手を取っていたせいで、一緒に落ちる。





その果てのない闇の中に。







空が。






「大和!!!!」







空が、閉じていく。







まるで大きな袋をぎゅっと絞って閉めていく様子を、内側から見ているみたいだった。






お父さんの顔が、



太一兄ちゃんの顔が、


頼人の顔が、


夕の顔が、






まるでその存在が嘘だったかのように霞んで消える。







漠然と、思った。







もう、会えない、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る