第11話

「ちづ姉?」




頼人が声を上げた。



この声ではない。





「千鶴子?そっちは・・・」






お父さんが心配そうに声を上げる。



この声でもない。





ふらふらと引き寄せられるように、その鳥居に近づいて行く。





だって、呼んでいる。




私を、



呼んで・・・







「ちづ姉!!なんかおかしいよ!!どうしたんだよ?一体!」





大和が、私の腕を掴んだ。


その力で大きく自分の体が揺さぶられて、鳥居の前で崩れ落ちる。



地面にへたりと座り込む。






浮いた私の右手は、元の位置に戻ってくることはなかった。






右手は、誰かに取られていた。







冷たい左手が、私の右手をしっかり握っていた。





ただし、その左手は手首より上は無かったけれど。









「ち、ちづ姉・・・・これって、ヤバイのかな?」





ぼんやりと自分の手とその冷たい手を見ていた私に、大和は呟くように言った。



その声は頼りなく震えている。




どういうわけか、やっぱり私は全く怖くない。



恐怖なんて感じない。




ただただ、冷たいと、そう思った。






「・・・ヤバイのかな」




「父さん!!太一兄ちゃん!!ちょっと!ちょっと来てよ!!!」





悠長なことを抜かしている私を諦めたように、大和は大声を上げた。







まるで宙から生えているみたいだ。




鳥居から生えているみたい。




なんていうのかな。



この鳥居の向こうはきっと別世界で、神域?から生えているみたい。






怖く、ないの。






全く。





私はこの手を知っている。





そんな気がする。





まるでようやく会えたと、思う。




この冷たさに、逆にもっと触れていたい。







何だろう、この気持ちは。




この、寂しくて、


でも愛しい。




ただ目の奥に陽炎が揺れていた銀のアスファルトが滲む。





銀が、苦しい。




何だろうか。




こんな、胸が詰まるような切なさは。

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