第7話
「あ、本当にこっちだ!すっげえ!ちづ姉ちゃん!!!」
頼人が数10m先を走って指差してそう言った。
さすが観光地。看板が沢山出ている。
ようやく鎌倉駅が見えた。
その前の若宮大路と言う大きな通りをひたすら歩いて行く。
道の名前は、やっぱり全部看板に書いてくれてある。
なんて親切なんだろうか。
セミの声が煩い。
暑さがじりじりと肌を焼いて、この身を焦がしていく。
セミの声と、人の声。
入り混じって、頭の奥を壊していくみたいで気持ちが悪くなりそう。
「ちづ姉?どうかした?」
翳った私の顔を覗き込んで、大和は心配そうにそう言ってくれた。
「ううん。なんでもないよ」
なんでもない。
頬に伝った冷たい汗を手の甲で拭う。
ああ、また聞こえる。
ざわざわと、背中を舐めるように鳴るこの声。
ノイズが、さらに大きくなる。
名前を、呼ばれているような、気がする。
何だか、正しい音も飲み込んでいく。
こんなこと、今まで一度もなかったのに。
焼けたアスファルトの匂いに酔ったのかしら。
心拍数がどんどん上がっていく。
単純な不安と恐怖が、ずくずくと胸の内で広がる。
熱中症?
日射病?
違う。
そんなものじゃない。
そんなのじゃなくて、だったらなんだって言うの?
自問自答で、返ってこない問いばかり胸で鳴らす。
誰かが私を呼んでいるような、そんな声が時折人ごみの中から響く。
幻聴だと思うのに、
振り返ってみても、誰も私のことなんて呼んでいるわけではないのに。
なのに。
「千鶴子?どうしたんだよ?」
立ち止まって振り返った私に、太一兄ちゃんは声を上げた。
「・・・誰か、呼んでるような気がしたの」
「友達がいてもおかしくはないからな。行くぞ~」
その言葉に、ううん、と思う。
友達の声じゃない。
知らない人の声。
聞いたことのない人の声。
それなのに、懐かしいような、
そんな低い男の人の、声。
どういうわけか、ここに来てからより一層響き出したような気がする。
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