第6話
「千鶴子、着いたぞ」
その声で現実を取り戻す。
眠くないと言いつつ、どうやら眠ってしまっていたようだった。
「ちづ姉ヨダレ垂れてるよ」
にやにやと笑った大和を見て、はっとして口元を拭う。
「うるさい。いいじゃないの。ほら、夕!頼人!着いたよ!鎌倉!」
ちょっと乱暴に二人を揺さぶって、起こす。
二人は不機嫌そうに眉を歪めてぐずった。
「あ、もしもし?俺、太一だよ。今さ鎌倉着いたんだよね。え?うん。月子はデートだって言うから月子以外と来た。今どこ?」
太一兄ちゃんがお父さんに電話してくれている間に、ぐずった夕をあやす。
鎌倉は、観光地と言うことで案の定人が溢れている。
ぐずる夕の声が辺りに響いて、すれ違う人々が眉を歪めて行く。
「夕、すぐお父さん来るからね。」
そう言いながら、夕の背を擦る。
慣れているとはいえ、時折夕を本気で怒ってしまいそうになる。
泣きやんでほしいと思うのに、上手く泣きやんでもらえなくて、どうしてもイライラとしてしまう。
私ってダメな人間だなと思ってため息をつく。
寂しさ故って分かっているのにな。
「千鶴子。鶴岡八幡宮だってよ」
「え?つるがおか?」
「はちまんぐう。父さんそこにいるだってさ。鎌倉駅の近くに車停めたって言ったら、十分歩いて来れる距離だとさ」
太一兄ちゃんが、夕を私の代わりにだっこする。
「鶴岡八幡宮ってどこだろう?地図ないかな?」
大和が、きょろきょろと辺りを見回す。
私も同じように見回したけれど、地図は残念ながら無かった。
けれど、何か。
胸の中で何かが芽生えた。
大事な何かが、そちら側で手を振っている。
そんな気が、した。
「こっちだよ、きっと」
指を差す。
太一兄ちゃんと大和は一緒に眉を歪めた。
二人は顔は余り似ていないけれど、こういう仕草そっくりだ。
「本当に?ちづ姉適当だろ」
「バレた?でも本当にこっち・・・」
ふらりと歩き出す。
何か手繰り寄せられるように。
何に?と問われれば、その答えは出てはこないのだけれど。
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