第5話

「そう言えば、月子は?」



「デートだってさ」




大和がまた呆れたように声を落とす。




「あいつも自由だよな。この間うちに来た男と?」



「いや違う。また違う男と付き合いだした」




「すげえな。月子も結構簡単に男変えるよな」




「何か、あんまり本気になれないって言ってた。けど男は寄ってくるんだってさ。無数に」




「あいつは美のために生きてるようなもんだからな」






太一兄ちゃんと大和のやりとりをぼんやりと聞く。


月子がいいなと、思ってしまうのは間違いだろうか。




私だって恋がしたい。




いつだって、家のことが一番だった。





部活が終わると真っ先に家に帰って、そうして家事を一手にやる。


自分の時間は、部活の時だけだ。





恋なんて、している暇がなかった。





多分当分無理だろう。


夕も、頼人もまだ幼い。






私がいないと、ダメ。







あの家は私がいないと機能しないのは簡単にわかる。


そう思って、今まで諦め続けていた。




「千鶴子、眠いのか?」




黙った私に、太一兄ちゃんはバックミラーを見て気づいたのかそう声を掛けてくれた。




「・・・うん。少しね」




少しだけ笑う。


引きつった笑みで。





「お前も疲れてるだろ。少し寝てていいぞ」




「うん」




眠くはなかったのだが、月子の話しは余り聞きたくなかったからそう言った。




ひがんでいるんだろうな。


こんな私、嫌だとただ思う。




うん。嫌だな。





本当は鎌倉に行くのも、なぜか嫌だ。







車がアクセルを踏むたびに、不安が圧し掛かってくる。



なんだろう。


このもやもやと胸の奥に巣食う不安は。






何か切ないほどの絶望と、



苦しいほどの寂しさが詰まっている、そんな。

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