第一章 氷色

鎌倉

第4話

「ちづちゃあん。ジュースこぼしたあ」




大きな瞳に大粒の涙を溜めて、夕は言った。




「はいはい。大丈夫。太一兄ちゃんの車が汚れるだけだから」




私は動じずに車の後部座席にべっとりと付いたオレンジジュースをふき取る。




「俺の車じゃなくて父さんの車だよ。夕、汚していいんだぞ」




「なんだよそれ」





大和が呆れたようにため息を吐く。





「汚しちゃえば、父さん新しい車買うかもしれないだろ?」



「腹黒いよ、太一兄ちゃん」




にやりと笑った太一兄ちゃんに、苦しそうに大和は笑う。





車は100km以上出して、高速道路をひた走る。


この分じゃもうすぐにでも鎌倉まで行けそうだ。





「鎌倉って何がおいしいの?!なあ!」



「頼人。そんなに食い意地張らないの。向こう行ったらお父さんに美味しいもの食べに連れて行ってもらおうね」




「うん!!」




抱きついてくるその小さな体を、私も抱きしめ返す。


まだまだ甘えん坊。





やっぱり私には限界があるのかな。



母親にはどう足掻いたってなれないし。






「ちづちゃん眠い~」




「はいはい。少し眠りなさい」




夕も小さく丸まって瞳を閉じる。


傍にあったブランケットを夕に掛ける。

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