第3話
「あいつどうにかならないかな。本気で殴りたくなる。最近酷すぎるよ。反抗期」
「やめなさい、大和。お姉ちゃんはいいから」
諌めるようにそう言うと、大和はバツの悪そうな顔をした。
月子と大和は双子だ。
二卵性双生児。
だから大和も中学3年生。
二人は顔も性格も全く似ていないけれど。
「俺、一緒に行くよ。どうせ夏休みで暇だし。鎌倉行ってみたい」
「俺も行く!」
後ろから抱き着いてきたのは、5番目の弟の頼人だった。
小学校3年生。
まだまだ甘えたい盛り。
「夕もかまくら行くう!!」
正直、頼人と夕が一緒に行くなんて、結構大変になってしまう。
きっと振り回されるだろうし・・・
「どうしたんだよ?みんなで鎌倉行くのか?」
笑って顔を出したのは、一番上の兄の太一だった。
一番上なのに、ほっつき歩いてほとんど家にいない不肖の兄。
大学2年生で、笑って謝れば済むと思っているところはお父さんにそっくりでまた腹が立つ。
今日は家にいるなんて珍しい。
「そう。お父さんが学会の資料忘れたって言うから」
「兄ちゃん今日暇だから連れてってやるよ」
にっこりと笑った。
その笑顔に前言撤回しようと簡単に思う。
ひどい事思ってごめんねと、コロっと手のひらを裏返す。
「本当に?!お兄ちゃんたまには役に立つね!」
「たまには言うな。たまには。旅行気分でいいだろ?」
一番上が、太一。
二番目が、私、千鶴子。
三番目が月子。
四番目が大和。
五番目が頼人。
六番目が夕子。
これが私の家族。
この少子高齢化が叫ばれるこの日本で大家族。
近所じゃ有名な、桜井兄弟。
きっとずっと一緒で、変わることなく私はここにいるのだろう。
私はずっと母親代わりで、そうやって日々を過ごして行くのだろう。
あ、と思って耳をすます。
時折聞こえる不思議な声。
まとわり付く、ラジオのノイズのような、そんな声。
幼い頃から本当に時折だけど聞こえる。
何となく、私の名を呼んでいるような気がする。
ただじっと捕らえるように耳をすます。
その波紋のような、小さな声を。
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