第2話
私の父親は大学の教授。
お父さんはよく忘れ物をする。
よくというレベルじゃなくて、ほとんど毎日のように。
こんなにも頭のネジが抜けている教授がいていいのだろうか。
まあ、研究にしか目がないところは、評価してもいいのかもしれないけれど。
「・・・わかったわよ。今から行くから、お昼過ぎにはそっちに行けるわ」
『ありがとう!ありがとう!千鶴子!』
お父さんは泣き出した。
こんなに簡単に号泣する父親はどうかと思う。
「ちづちゃんどっか行くの~?」
私のセーラー服の、スカートの裾を掴んで言ったのは、6番目の妹の夕子だった。
今年幼稚園の年長さんだ。
さっきおもらししたせいか、少し照れくさそうにおずおずとそう言った。
「学校行くの?」
携帯を打ちながら、私をチラリとも見ずに言ったのは、3番目の妹の月子だった。
中学3年生で、今が一番の反抗期。
最近髪の毛を栗色に染めて、先生からものすごく怒られたけれど、直す気はないらしい。
私ももちろん怒ったけれど、月子は私の話は聞こうとしない。
私が『お母さん』じゃないから。
それでも話しかけてくれるところを見ると、本気で嫌っているわけではないみたいで安心する。
思い返せば、私だって少しキツク言い過ぎたかもしれない。
「部活出ようと思ったけどね。お父さんが学会で使う資料を忘れたみたいだから鎌倉まで行ってくるの」
「鎌倉って災難じゃん。ちづ姉いいように使われてない?」
ケラケラと笑ったけれど、やっぱり私を見ようとしない。
携帯の奥ばかり見つめている。
「じゃあ月子が行けよ。ちづ姉ばっかり大変だろ?」
「うるさい、大和。あたし今からデートだし無理」
月子は、大和を一瞥してさっさと部屋に戻って行ってしまった。
大和はそんな月子を見送ってため息を吐く。
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