母と弟がいない理由

元々は4人で暮らしており、

いつからか父方の実家で暮らしていた。

そこからの記憶が曖昧なのだが、

父と母が何らかの理由で離婚することになった。


保育園帰りに、父と母が合流し母に会えてうれしかった私がいた。

車内で2人が話あっており、私は何もできずひたすらに空気が重たく感じ、

母のすすり泣く声と父親の怒鳴る声が息苦しく感じた。

それから私は父が、弟は母が引き取ることになり、いつしか別々で暮らすことにも慣れてきていた。


そんな日々がしばらく続いたあたりだろうか、

とある夜父親が明るく、でも寂しく私に話しかけた。

「〇〇、一緒に死のうか」


おそらく私は4.5歳だったと思う。

死ぬということは車に乗ったまま海に飛び込むのだろうかとか、

なんとなくの理解はできていた気がする。

私は努めて明るく返事した。


「うん、いいよ!」

ここで否定してはいけない気がしたから。

理解していないていを装ったほうがいいのだなと思ったから。

父の顔が寂しそうにしていたから、喜んで欲しかったのもあったのだと思う。


その問いかけは何度か行われたが、実行はされなかった。

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