第八話 聖女、恩寵
闇くなっていく意識の中で僕はまたあの声を聞いた。
『ここで死んでもらっては困るな』
『そうまだ死ぬことは許しません』
『彼に
その言葉と胸に何か入ってくる感覚で僕は意識を取り戻した。
ゆっくりと目を開ける。
知らない天井、でもあの地下ではないらしい。
白がベースの部屋のベットに寝かされている状態だ。
胸に手置くと貫かれ穴が空いているはずのところからは心音が聞こえてくる。
傷もない。
あぁ、僕は死すらも選べないのか...。
つくづく自分は神の掌の上だと実感し、どうしようもない悔しさが湧いてくる。
しかし、ここで悔しがっても何も変わらない、まずは今の状況を把握しなければ。
僕はベットから起き上がり部屋を見渡す。
ベットのすぐそばの壁に最高神たる2神と聖炎のシンボルがあるのですぐにここがどこかの教会だとわかる。
ここは客室かな?とりあえず外に...
部屋の外へと出るためドアへと向かおうとすると「ガチャッ」と言う音とともにドアが開かれる。
誰か入ってくる!?
僕は開かれるドアから現れる人物を警戒し身構える。
入ってきたのは見事な金の意匠が施してある純白のローブをまとった紫色の髪をフィッシュボーン状に束ねた美しい少女だった。
僕やピューラより少し年上かな?それに目を
「あら、お目覚めになられたんですね」
入ってきた少女が僕に気づき、その目を開き
あまりにもきれいな瞳なので僕は少し見惚れてしまった。
彼女は何かに納得したようにうなづき再び目を閉じて僕に近寄ってくる。
「ごきげんよう‟寵愛者”フォルさん。」
「寵愛者?」
聞きなれない呼び方をされ僕は聞き返す。
「はい、タマスの報告と私の瞳の観測によりあなたから主の神性を確認しました、このことから教会はあなたをそう呼称することに決定しました。通常では人に宿ることはない主の神性、しかもまだかすかにその体から感じられます。うらやましい限りです。」
「そうなんですか...それよりあなたは誰なんですか?そしてここは?」
その問いかけに少女は「これは失礼しました」と謝罪の言葉と丁寧なお辞儀をし質問に答える。
「私はスピル・ベレッダと申します教会からは‟癒し手”、‟聖女”とも呼ばれています。そしてここは‟聖王国ケンドラ”にある‟アハド大聖堂”です。」
「聖女様!?聖王国!?」
重要な情報がいきなり入ってきて整理が追い付かない、聖王国と言ったらオーベス教の総本山で教会組織のトップである教王が収める国だ。
僕は監禁されてたからこの大陸の地理には詳しくないけど僕が生まれた国からだいぶ遠いはずだぞ、いやそれよりも目の前の子だ確かに‟聖女”って言ったぞ、聖女って言ったらその代で‟神”に選ばれた教会で教王の次に発言力のある人じゃないか。
「あの、聖女様?なぜ僕が聖王国に?」
「そのことについて説明しますね。我々には‟預言者”という者がいましてその方が‟主により寵愛されし子が我々を導く”ていう予言をしまして、私たちはその情報を集めてました。そうしたらある街で祝福を体験できるというショーが開催しているという情報をつかみましてその街の司祭に接触したのです」
確かにあの司祭が教王に関することを地下で話していたから信用できる話だ。
「はぁ、それで見つかったのが僕だと?」
「はいその通りです。まあ当初は違ったんですけどね」
「当初は?」
「私たちは当初、ショーを見た結果と司祭接触時の態度からその街の司祭並びにその関係者を異端者とし処理する計画だったのです」
「え?ではなぜ僕がここに連れてこられたのですか?」
「タマスがあなたの祝福と神性を観測したのがあなたが連れてこられた理由です。」
「なるほど...」
「フォルさん、寝起きのところ悪いのですが今からあなたは御連れ様の異端審問もかねて教王陛下に謁見してもらいます」
「そうだ!ピューラはどうなったんですか!?」
「説明は歩きながらしますので私について来てください」
そういって聖女様は踵を返し目的地へと向かうので僕も部屋から出てそのあとに続いた。
聖女様は僕にことのあらましを説明しながら歩を進める。
「貴方たちは昨日タマスの恩寵によりここへ運ばれてきました。フォルさんはタマスにより事前に報告があったのですが、問題は御連れ様の方です」
「ピューラが?」
「はい、そのピューラさんは最初
「え?あの司祭たちは分かるのですがなぜピューラも?」
「先ほどもいいましたがあなたを利用し得た利益の恩恵を受けたものもその自覚無自覚関係なく対象です」
「え?それはあまりにも理不尽じゃ...」
「主の祝福を汚したものを教会は許しませんから。では続きを話しますね」
納得いっていない僕をよそに聖女様は話を続ける。
「それで今ピューラさんの持つ恩寵が問題となっているのです」
「あの、先ほどから恩寵って何なんですか?」
「そうですね簡単に言うと恩寵とは主が我々に授けてくださった魔法や魔術とは違う奇跡の力。あなたもピューラさんやタマスが不思議なことをしていたのをご覧になりませんでした?」
ああ、ピューラの炎やあのタマスっていう人が足元から槍を出したことか。
「その恩寵の何が問題だったのですか?」
聖女様は難しい顔をして答える。
「教会は恩寵の持ち主を保護、もしくはその力を使い悪事を働いた者を処理するのが仕事の一つなのですが...ピューラさんの恩寵は炎、主が我々に最初に与えてくださった聖なる炎。その恩寵を与えられたものを処理するのはどうかと教会本部の幹部内で意見が割れてしまいまして。」
聖女様は話をそこで切り、豪華な装飾がされた大扉の前で立ち止まる。
「着きましたね。では中で教王陛下がお待ちです」
聖女様は剣を携え扉を守る騎士に話、扉を開けさせるのであった。
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