第七話 死なずの祝福

 理解が追いつかない出来事が起きて未だ僕は混乱がとけない状態だ。

 そして命の危機は脱したが事態はあまり好転していない。

 どこからともなくやって来た目の前の麗人はあの教会で見たことはないがシスターの服装からして信徒であることは間違いない。

 ...教会からの追手かもしれない。

 こちらが警戒して押し黙っているとあちらから切り出してきた。


「こんばんわ、私はタマスと申します。危ないところでしたね、最近はアンデットたちが異常に活発になっていての結界程度では怯まなくなっているんですよ。

 このおじさんは残念でしたがあなたたちを救えてよかった、これも神の祝福ですね。」

 

  いかにも優しいお姉さんといった雰囲気を纏い馭者のおじさんの死に詫びの悲しみの表情を浮かべつつ、慈愛すら感じる笑顔で話しかけてきた。

 屍人たちを串刺しにしたのは発言からしてこの人のようだ。


「えっと、タマスさん危ないところを助けていただいてありがとうございます。」


 何も返さないのは不自然なので僕が感謝の言葉を言う。


「いえいえ、不浄から人を護るのが聖職者の勤めでもあるので、ちょうど私が通りかかってよかったですね。」


 よかった僕たちとは関係がない人のようだ。

 そう思い僕が少し警戒心を解くと、僕の後ろにいるピューラが警告してくる。


「フォル騙されちゃだめ、この女とても胡散臭いわ、それに一人でこんな危険な夜になんので行動するなんてありえない絶対私たちの後を付けてきたんでしょ!?」


 確かに、この人はから出てきたのだ手には松明も何も光源となるものを持っていなかった。


「ハァ〜、勘がいいなーせっかく美形なの前で淑女モードで通せると思ってたのに〜」


 タマスはさっきの態度と打って変わって声色までも軽い感じに変化した。

  淑女モードってなんだよ...いやそれよりも僕の名前を知ってるってことは間違いなく教会からの追手だ...。


「まぁバレたならしかたない、さっさと仕事を終わらせよ。」


  タマスはそう言って僕らへと近づいてくる。


「またフォルを使って金儲けをするつもりなの!?」


 ピューラの非難の言葉がタマスへと放たれる。

  するとタマスは僕らへの歩みを止め額に青筋を浮かべ空気が重くなるほどのをピューラへと向ける。


「あの異端者どもと同列に扱われるとは...とても不快ね

 そういえばあなたにも異端認定がされてるんでした...串刺しになりなさい!!」


  ピューラの足元から重力に逆らって一本の槍が射出される。

「ズブッ」と鈍く突き抜ける音とともに放たれた槍が柄の部分まで心臓に突き刺さる。


「えっ、なんで...フォル?」


 僕はタマスの言葉を聞き咄嗟にピューラを薙ぎ倒し槍を庇い横たわる状態だ倒れる。


「あ、ああぁぁ!フォル!心臓に、私なんかを庇って!だめ、フォル死んじゃダメ!」


 ピューラが僕の顔に触れ呼びかけてくる。

  あぁ...ピューラが叫ぶ声がだんだんかすれて聞こえる...もう目も霞んで何も見えない...体が冷たい、痛みは感じない、眠い、ここでおわり....か。

 フォルが停止する。


「あぁ、ダメそんなフォル...」


  フォルの冷たく冷め切ったのを感じピューラはただ静かに涙を流す。


「まさかあの射出速度の槍から彼女を庇うなんて...」

  予想外の出来事にタマスは唖然とする。

 しかし、タマスはフォルに起き始めたに気づく。

 ん?フォルくんに神性を感じる?

 神性、神が関与した土地や物に残る神跡嚙み跡

 いや気のせいじゃない!どんどん強くなっていてる!


「!!」


 タマスはフォルに気を取られ過ぎた...


「よくも…よくもフォルを!お前なんか‟燃えてしまえ!!”」


 少女による文字通り烈火の怒りがタマスを覆う。

 あの司祭のようにタマスの上半身が激しく燃え上がる。


「ハァ、ハァ…」


 再び力を使った反動がピューラに帰ってくる。


「ハァ、速くフォルを連れてここから離れないと…」


 ピューラは飛びそうになる意識をどうにか保ちフォルを馬車の荷台へと運ぼうとする。


「これは驚きました、聖なる炎の恩寵とは。予定変更、あなたも捕縛対象とします」


「ハ?」


 ピューラの前に燃やしたはずの女が立っている。

 一番目を疑ったのはまだ目の前の女の奥で先ほど燃やした者がまだ燃えているという異様な光景。


「いったい、どうなって..!」


 タマスによる拳がピューラを襲い「ドン」という腹からの衝撃でピューラの意識が飛ぶ。


「それよりもフォル君です、なぜ神性が...」


 フォルへと目線を向けたタマスはフォルに刺さっていた槍がとなっていくのを目の当たりにする。


「な!?私の槍が!しかも貫通した傷がふさがっていってる!?」

 再生力じゃない確かにこの子は心臓を貫いて生命活動が停止したはず。

 それに…それに神性がどんどん濃くなっていく!

 そしてタマスは頭上から何かがくるのを感じたまらずそのばから飛びのく。

 次の瞬間先ほど立っていた場所に耳を劈く音とともに雷が落ちる。


「フォル君にじゃない私に向かって落ちてきた!もしかしてフォル君の祝福は...」


 そのあと幾度もタマスを雷が襲い、フォルの神性の消失とともに襲雷もおさまった。

 タマスは警戒しながらフォルに近づき、確かめる。


「蘇生している...」


 貫通していた傷跡はきれいさっぱりなくなり、呼吸も再開している。


「でも顔色は悪い...このまま聖王国に持ち帰りに見せたほうがよさそうね」


 フォルとピューラは自らの影へと沼に沈むように落ちていく。

 二人が影へと落ちたのを確認したタマスは自身も影へと沈んでいきその場には誰もいなくなるのであった――――


 

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