第六話 会合

 死、それは神によって誰しもに平等に与えられる休息。

 しかし、人間は時折死を拒む、稼働を続けたがる。

 昔ある少女がいた。

 彼女は誰よりも死を恐れ、逃れようとした。

 彼女は死から解放されるために禁忌に触れる。

 それは「錬金術」と呼ばれるもの。

 錬金術はある物質を全く違う物質に変換する魔術。

 それはあらゆるものが再現可能で時折この世から逸脱するものを作り出す時もある。

 オーベス教では錬金術は禁忌とされている。

 しかし、錬金術の行使の技術などとうに忘れ去られ今行使できるのはこの世でたった1人しかいない。

 話を戻す、ある日彼女は禁忌を錬金術を行使してとある「神秘」を作り出し擬似的な不死を手に入れた。

 そう、他人からエネルギーを吸収し生きながらえる吸血鬼。

 彼女はそれに初めになった存在。

 彼女こそ歴史にその存在を2000年間刻み込むこの世最古の吸血鬼、「ラメルカ・セムレフ」。

 紅き吸血鬼の女王。

 異端であるアンデットとして表向きは公表しているが、教会が唯一確認している「汚点」の一つであり、教会は「無様な不死者クラムジー」と呼称している。


 ◇


 僕は今隣街へ届けるの荷物を載せたに場所の荷台でピューラとともに揺られている。

 ピューラと僕は崩壊する教会から逃げた後追手を警戒しながらこの街から離れて隣街を目指すため城壁で囲まれたこの街の南側の出口を目指し、明け方には南門についた。

 隣街といってもこの国はいくつもの城郭都市が点々と存在しており、その間隔は馬を使っても一日以上かかる距離だ。

 街の外の夜間の行動は危険だ、常に盗賊や猛獣、アンデットといった危険と隣り合わせで何の装備もなしだと無事ではすまない。

 僕らはまだ子どもだ、そんな非力の存在が街の外へ出ても高確率で死んでしまう。

 僕らはどうすることもできず途方に暮れていた。

 運が良いことに僕らは早朝から街から出ようとする荷馬車を見つけ、馭者ぎょしゃのおじさんに尋ねると隣街へ荷物を運びにいくと答えられたので、僕らを運んでほしいと頼み込んだら親切なことに二つ返事で了承してくれた。

 そして今に至る。

 ピューラは僕の横で熟睡している。

 街から出発してしばらくしても追っては来なかったのですこし安心したのかウトウトしてるなと思ったら眠ってしまった。

 ピューラは力を使った反動は半日は続くらしく未だ顔色が優れない。

 なので、疲労により僕も眠いが追手への警戒を怠ることはできないのでピューラは休ませてがんばって閉じそうになる瞼を開いている。

 すると馭者のおじさんが気さくに話しかけてきた。


 「しっかし、あん時はあんまりにも深刻な顔つきで頼み込んでくるものだから何も聞かなかったが、子ども二人で隣街までなにしにいくんだい?」

 

 「隣街に住んでいる祖母が体調を崩したと知らせが来たのでそのお見舞いに...」

 

 僕は両親の顔も知らないのにとっさにそんな嘘を吐く。

 馭者のおじさんは疑うことはせず、ただ「いい子だな」と少し感動した様子で孝行人と褒めてくれた。

 すこし良心が痛んだ。

 そのあとは休憩もはさみながら順調に目的地へと向かった。

 夜の移動は危険なので野宿することになった。

 テントを張るとおじさんが晩御飯にスープを御馳走してくれるというのでごちそうになることにした。

 野営の準備を手伝っているときおじさんがテントの周辺を松明で囲み始めた。

 何をやっているのかと聞いたら、この松明はアンデット避けだと返された。

 

 「屍人や吸血鬼は何でかは知らんが神聖な火を忌避するからな、この松明は‟燃える水”を燃料によく燃えるからアンデットどもは近づかんし、猛獣どもも火を怖がって近づかんから絶対安全だ」

 

 と教えてくれた。

 なるほどと得心して、馭者のおじさんが作ってくれたスープを御馳走になっていると、暗闇からむすうの足音が近づいてくるのが聞こえてきた....。

 だんだんこちらへ近づいてくる、は迷わずこちらへ向かってきていた。

 そして松明の明かりでその姿が映し出されてきた。

 それは人だった。

 いや少し語弊があった、確かに見た目は人だ。

 しかし、その肌に生気はなく、こちらはことは視界に入れているがどこか上の空で、口からは‟う”や‟あ”といった漏れ出たような、なにかをもとめているような声を度々発している。

 まさに屍人という名前のふさわしい姿だ。

 「屍人だ...」と店主は全体的に落ち着いているがすこし驚いた表情でつぶやいた。

  僕らは馭者のおじさんから安全と聞いていたので落ち着いていたが、ピューラは怖いらしく確認した。


 「だいぶ近づいてきてますが大丈夫なんですか?」


 「あ、ああ。ここまで近づいてきたのは初めてだがこれ以上は奴らも近づけんはずだ....」


 しかし、その希望的観測は瓦解した。

 一体の屍人がこちらの領域に軽々と入ってきて馭者のおじさんに飛びつき叫び声とともに抵抗するおじさんをむさぼるように

 どんどんおじさんへ屍人達は群がっていき、おじさんの抵抗は小さくなっていった。

  

 「う、うわー!」

 

 心臓が大音量で危険信号を発してくる。

 僕とピューラは松明をもって一目散に荷馬車方へ避難した。

 しかし、周りは屍人だらけ、もう四方を囲まれていた。

 目の前までせまってきた屍人が今にもとびかかってきそうだ。

 僕は「よるな!」と燃える松明を屍人の方へ向けるが全然ひるまなかった。

 ピューラの力には頼れない、使ったらピューラは動けなくなって一緒に逃げれない、しかも最高で二回しか使えない。

 クソ!こんなところで僕たちは終わるのか?折角逃げ出してきたのに!

 そんなことを考えている最中にはもう目の前の屍人がバッと勢いよくにとびかかってきた。

 とっさに背を向けピューラをかばい目をつぶった。

 ....が、来るはずの衝撃も痛みもなかった。

 恐る恐る目を開け後ろを見るととびかかってきた屍人は足元から生えるにより貫かれていた。

 この一帯だけじゃない、周りを囲っていた屍人も馭者のおじさんに群がっていた屍人もすべてが多種多様な武器により貫かれていた。

 その突然の異様な現象に唖然としていると、どこからともなく女性の声が聞こえてきた。


 「危ないところでしたね、いやちょっと遅れちゃったか」


 声とともに晴れてきた月明かりにより暗闇よりシスター服の黒髪の麗人が現れた――――

 


 

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