第五話 異端狩り
人は潜在的に恐れるものがある。
この世界では古代より雷が恐れられており、へーレスの怒りとも考えられてきた。へーレスは雷を司る神としても認識が持たれている。
フォルの試練が雷に起因しているのはそこに関係してあるのかもしれない──
◇
フォルたちが去った後の教会は完全に崩れ、残骸を糧として炎が煌煌と燃え続けていた
フォルの予想通り司祭以外の祈りの時間が終わった者たちは大人は教会の所有する土地での畑仕事や外回りの仕事、子供達は庭で遊び中で教会建物内にはおらず被害は出なかった。
仕事から帰ってきた修道士やシスターは教会の有様に茫然とし動けなかった。
そこに鶴の一声を浴びせたのが上半身の服は焼け焦げ軽いやけどを負っている
「お前たち何をしている!!すぐに子供たちの安否の確認と、
「司祭様いったい何があったのですか!?それにその恰好は?」
「フォルの祝福によるものだ。私の話は後でする、まずは行動するのだ」
司祭の指示により子供たちを保護してテントで寝かせた後、信徒たちは別のテントで事の顛末の説明を司祭に求めていた。
「まず教会の崩壊はフォルの祝福によるものだ巨大な雷が落ちたのを確認した。そして私のあの有様はピューラによるものだ。あの子は‟恩寵”持ちだった、おそらくは炎を操る能力だろう。私を燃やしたあとフォルとともにここから逃げていったようだ。」
「恩寵....!]
「本当にいるとは...」
恩寵と聞き信徒たちはざわつきだす。
それもそのはず、恩寵を持つ者は極めて少なく、周知されているのは教会が保護を目的としていることや歴史的英雄が有していたなど伝承されているものがほとんど。
そもそも発見しても教会が情報を抹消することもあり、一般人、一般信徒が実際に触れることはないに等しい。
「それにしても、話を聞くかぎりでは炎を浴びせられよくその程度のやけどですみましたね」
一人の修道士が司祭に語り掛ける。
「ああ、‟癒しの輝石”が発動してくれたのだ、完治とはいかなかったが地下から這い出すことはできた。」
司祭は手にあるひびが入った緑の宝石を見せる。
「癒しの輝石」それは司祭など上の役職のものに支給される癒しの力が込められた輝石。
製造方法は教会上層部により秘匿されている代物だ。
「しかし、あの罰当たりが神聖な炎をあやつるものとはなんと皮肉な...いやそれよりも早急にあの二人を捕まえなければ...!」
司祭が二人の捕縛の指示を出そうとした時突然テントに一人のシスター服の若い黒髪の女が入ってきた。
「こんばんわ~」
皆いきなり入ってきた見慣れぬ者に視線を集める。
間の抜けた態度に腹を立てた中年のシスターが前に立ちはだかり入ってきた者を叱責した。
「何ですその失礼な態度は?所属を言いなさい!」
しかし次の瞬間誰も予想しなかった展開が起こった。
中年シスターのうなじからズッと
「あ"、え”....?」
中年シスターは自分の首に突き刺された物を確認する前に目の前の女から抜き取られ倒れ、赫い水たまりを作っている。
「な、なんということを..!」
「ひぃぃっ..!」
突然の蛮行に信徒たちは一斉に慄く。
「まあまあ、皆さん落ち着きましょうよ~」
女は入ってきたとき同様間の抜けたような口調で動揺する信徒たちはをなだめようとする。
「貴女は‟影”のタマス殿ですね?」
司祭は落ち着いた様相で女に敬意を含んだ口調で確認する。
「おや?私のことを御存知で?それにこの状況でなにやら落ち着いたご様子...もしかして元‟同僚”の方ですか?」
「ええ、15年前まで私も‟異端狩り”の...‟裁断機構”所属でした。そこで一度遠目で拝見したことがあります。」
予想外の司祭の改まった姿勢に一人の修道士がたまらず尋ねた。
「司祭様、いったい此の者は何者なんですか?」
司祭は皆に聞こえる声で答えた。
「お前たちも教義に反するもの、アンデット、聖典にのってないものを異端とし、それ狩る戦闘専門の教会組織体である裁断機関は知っているだろう?この方はその組織内でも優秀な信徒で教王様からも重宝されていたお方だ。」
信徒たちは目の前の女の素性に驚きを隠せず、疑いの目を向ける者もいた。
「そんなあなたがなぜここへ、しかもこのような蛮行を...」
「まぁ、今の所属は厳密には違うますがね。司祭さんあなたも元同僚ならもう察しているでしょう...あなたは、いえあなた方は教王様より異端認定されたのですよ。私はちょうど暇だったので処分の命を受けています。」
ありえない宣告を受けざわつき始める。
「ありえない」や「戯言を!」などの声が上がり始める。
さすがの司祭もすこし焦った様子で弁明をする。
「私は教王様より地位の約束までしてもらっているのですよ?なぜ突然異端などと...」
「祝福された少年の件でしたら嘘ですよ」
「...へ?」
突然の嘘宣言に周りは静まりかえり、司祭は間抜けな声をだす。
「そもそも陛下はそんなものに興味はありませんし、貴方がたが一人の少年を使い神の祝福を騙って私利私欲に走ったのはもう判明しています。あのクソやろ..いえ教王様は性格がちょっとあれですからね、上げて落とすのが好きな人ですから...お気の毒さまです。」
タマスが哀れみの表情を向け言い放つ。
その瞬間司祭が腰に帯剣していた剣を抜き放ちタマスの首に切りかかる。
しかしタマスは人差し指一つでその迅速な剣を添えるように止めてしまう。
「おっと!さすが元異端狩りは思い切りがいい」
司祭がいくら力を込めても少しも剣はその指に食い込むことすらできない。
周りは一瞬の出来事に対応しきれていない。
「では異端者の処刑を始めます」
タマスが行動を起こそうとした瞬間ある信徒が発言する。
「あの私はは司祭様の命令に従っていただけなのでどうか命だけは」
一人の信徒の発言で周りは堰を破壊したように次々と命乞いを始める。
「どうかご慈悲を」「私だけは」など様々な声が飛び交う。
タマスは哀れな命乞いに冷酷に答える。
「教王様の命は
それを聞き絶望する者、逃げようとする者、司祭に協力してタマスを排除しようとするものそのことごとくをタマスは串刺しにした。
彼らは自らの‟影”から出現した槍、剣、ハルバート多種多様な武器により余すことなく突き刺され肉塊と化す。
「なるほど..これが貴女の恩寵の力か...」
司祭はかろうじて急所に刺さらないように身を捩っていた。
「賞賛に値しますよ司祭さん。並みの異端狩りでも初見で即死しないのはすごいですよ。」
タマスの賞賛の声を聞き届ける前に司祭は絶命する。
「やれやれ、これほどの強者でも目がくらむとは、金とは恐ろしいものですね。まぁーその欲を捨てきれなかったのは修行不足ですが。フーさっさと仕事を終わらせて帰りましょう。」
そう言ってタマスは隣のテントにいる
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