第三話

神へのクレームを決意した二人はこれからのことを話し合っていた。




 「で、神に会いに行くのはいいけど、ここからどうやって出ていくのさ」




 「教会ここを燃やすわ、その混乱に乗じてここを逃げ出すの」




 「も、燃やす...!?ま、まあ燃やすのはいいとして、どうやって混乱するほどの火災起こすんだよ」




 「‟燃える水”を使うわ」




 ピューラは牢の目の前の部屋に安置されている木の樽を指さして提案した。


 ‟燃える水”それはこの大陸の人間にとっての神からの贈り物。


 暖を取ったり、料理をしたり、人にとってねつは生きてく上で不可欠な存在。


 地表から炎が出ているのを調べて発見して以来、それは神からの贈り物として神聖視され祈りや祭りごとの際には必ず燃える水を使用して火を灯す。


 フォルはピューラの提案を聞いて絶句する。


 教会を燃やすことですら普通なら考えつかない大罪だ、それに神聖な燃える水を使うなんてもうヤバいとしか言いようがない。


 


 「そんなことして、失敗して捕まったら殺されるだけじゃすまないぞ...」




 「その時はそのときよ、これ祝福試練だって言ってあいつらを笑ってやるわ」




 ピューラがやろうとしていることは常人なら悍ましいことだとフォルは分かっている、....でもやっちゃいけないことだと頭でわかっていても何故か心の奥底で‟やってみたいと”うずく自分がいるのを感じていた。それに先に気づいたのはピューラだった。




 「いい笑顔ね。私も大概だと思ってるけどあなたも結構悪い子なのね」




 フォルは思わず自分の顔触って表情を確かめるとそこには無意識に口角をあげている笑顔じぶんがいた。




 「あなただってこんなところ焼き消してから旅立ちたいでしょ?自分を使われて立てられたこんな場所」




 「...そうだね、うん、やろう盛大に燃やしてやろう!」




「じゃあ決行の日は三日後、あの生臭野郎が来る日にしよう」




 フォルの目はまだ死んだように濁ったままだ、でもピューラとの会話はフォルの心の堰をこわした、仕舞い込んでいた不満、怒りそれらが溢れ出した。


  フォルは自分の祝福に立ち向かうことを決めた。







 この世界には稀に不思議な力を発現させる者がいる。


 空を自由に飛ぶ者、天候を自在に操る者、影に潜り込める者などその力は多岐に渡る。


 その力を自由に操れる人もいれば無意識に発動する人もいる。


 不思議な力を教会は恩寵とし、全ての力は神々によって与えられた物であり、与えられた者は神に奉仕する教会に所属すべきである、と唱えその力を独占しようと表向きは秘蹟の保護を目的として能力者に接触し取り込んでいる。


 教会は全ての能力者を勧誘するわけではなく、すでに能力を使い悪きことをした者は教義に反することをした者、アンデットや悪霊と同様に異端ヘレシーとして処理している。


 フォルの身に起きることは神々自体が毎回与えているので能力者とは別ケースであり、神々に愛された者とされている。


 なお教義では神の力や存在を私利私欲に利用することは異端とされている──




 ◇




三日後──


 


 「早く来ないかなあの生臭野郎、早く燃やしてやりたい!」




まだ痛々しい傷が残るピューラは陽気快活にフォルに呼びかける。




 「今更だけど、どうやってあの樽に引火させるんだ僕も君も火を付ける道具は持ってないだろう?」




 「そこは私に任せといて...」




  ピューラは陽気なままであるがその表情がどこか悲しげに見えたフォルはその方法を追求せずに黙ってしまった。


  2人の空間に静寂が流れる。


  「カツ...カツ...」静寂のなか冷たく響いてきたのは石の階段を降りてくる足音。


   2人は目配せして対象が来るのを待つ。


   


  「この三日間懺悔し、改心したかねピューラよ」




  司祭は余裕のある、なぜかご機嫌な様子でピューラに改心の有無を求める。




  「ええしたわよ、でもまだ足りないかもね、たくさん悪いことをしたからね!」




  ピューラはあおるように返答する。


  しかし、司祭は気にすることなく上機嫌なままだ。


  気持ち悪いと思うほど疑問に思ったピューラは聞き返してしまった。


  


  「…なんでそんなに上機嫌なままなのよ、いつもならガチギレしてるでしょ」




  「...そうだな、感謝は隣にいるフォルにするといい」




  急にフォルが話題に上がりピューラは「は?」という顔になり、フォルは困惑している。




  「いやな、祝福に魅入られた少年フォルのことが教会本部..教王の耳にとまってな、前例のないことだから引き渡せばさらなる地位を約束してくれたのだ」




  もはや司祭の笑顔に金と権力に溺れる前の面影はなく誰もが引くような笑顔をその顔に浮かべ嬉々として答える。




  「フォルはともかく私にそんな情報をしゃべるなんてやっぱあんたは間抜けなやろうね」




  そんな悪態を鼻で笑い一蹴して司祭は腕を後ろに組んだように見せかけかくしていた剣を見せてピューラに死刑宣告をする。




  「これだからガキは、あれだけのことをして自分が死なないと思っているのか?子供を処刑するのは教義に反するからな、この三日間はお前の死亡を偽造するための資料を作ってたんだよ。この教会は変なところで身内の管理に厳しいからな...本当に苦労したよ」




  司祭は牢のカギを開けゆっくり剣を構えながら入ってくる。


  そこに子供の反撃程度でいなせるスキはない。


  絶対なる死がピューラに歩み寄ってくる。


  しかし、司祭は失念していた‟恩寵”の存在を―――


  


  「‟ 燃えろ!! ”」




  ピューラが予測外の言葉を発する。


  司祭はその言葉にすら反応できず上半身から炎を上げ倒れてしまった―――


  

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