第二話②

その後も胸倉につかみかかったままピューラはフォルに行き場のなかった怒り、不満をぶつけ続けた。




 「試練だとか言って戦争に無理やり徴兵された父さんはかえって来なかった!母さんは父さんがいなくなってからは一生懸命働いてた、これも神様がくれた試練だから乗り越えて祝福幸福をもらいましょうって言って頑張ってた。でもいつになっても、どんなに祈っても幸福になんてならなかった...母さんは病気になって寝たきりになったわ。ある日水汲みから戻ってきたら火事で家ごと焼けたわ....!」


 


 フォルは何も言わぬままピューラの涙を浮かべた目をまっすぐ見つめ続ける。




 「村のみんなはこれも祝福試練だって、父さんも母さんも私も乗り越えられ何のが悪いんだって、そういって何も助けてくれなかったわ、そのくせ祝福幸福だっていって父さんの遺品も母さんがためていたお金も全部焼け跡から取っていったわ!何なのこの世界は!何でもかんでも祝福、祝福....こんな世界狂ってる!」




 ハァ、ハァと息を切らすほど叫んだピューラは体に限界が来たのかつかむ手を放して座り込む


 無機質にフォルはつぶやく




 「....気が済んだ?」


 


 「…もう怒鳴る気力もないわ...ねぇフォルあんたはなんでここから逃げるのをやめたの?あんたこそあの司祭に使いつぶされて死んじゃうわよ?」




 「もうそれでいいんだ、三回目の脱走で捕まった時司祭様に言われたんだ「お前の祝福のせいでお前の両親含め多くの人を殺している。この前の火災を思い出せ、あの時も多くの人を傷つけ不幸にしている、逃げた先でまた犠牲者を増やすのか?」ってだから僕はここで早く死ぬべきなんだ、もう僕のせいで誰も不幸にしたくない」




 「フォル...あなたはそれでいいの?最後まで神にもてあそばれて」




 フォルはピューラの言葉を聞いた瞬間、濁った眼に怒りの炎を灯す




 「何が言いたい…」


 


 「だって、望んでないのに祝福なんてくれるから私たちは人生狂わされてきたのよ?こんなことが何千年も続いてるらしいじゃない、きっと神たちは人間が不幸になって悔しがるところを見て面白がってるはずよ?あなたなんて生まれてきた時から祝福されてるんでしょ?絶対神達あいつらあなたをもてあそんで楽しんでるわ、フォルだって納得できないでしょ?」




 「だったら何なんだ...僕にはどうすることもできない…」




 ピューラはいきなり体を起こしてフォルに手を差し出す。




 「だから、ここを出て一緒に神に文句を言いに行かない一発入れに?」




 「.....は?]




 「だって無責任に祝福してこんな狂った世界を作って、勝手に人の人生狂わせてんのよ?一発ぐらい殴りたくなるじゃない」




 「僕も何度も考えたさ!でも神達に会うことなんてできないじゃないか!...」




 「方法はあるわ、オーベス教の教書にも書いてあるでしょ?‟三つの難業を克服したものに神々がいる地への道が記される’’って生臭野郎が何度も聞かせてきたわ」




 「そんなこと信じられるか、何千年も前から言われてきたのに汚点が何なのかさえわかってないじゃないか」




 「じゃあ、このままここで根暗うじうじしてあの生臭野郎に使いつぶされて、神にもあそばれて死ぬの?本当にそれでいいの?」




 「でも、僕が一緒にいると祝福で君が死んじゃうかも....」




 「そんなこと気にするな、クソみたいな祝福なんかで私は死なないわ。現に何度も一緒の牢屋に入って何ともなかったでしょ?」




 「でもここから出ることなんて...」




 「そんなこと二人ならどうにかなるわ。どうするの?私と世界を変えに神を殴りに行く?」




 フォルは迷った。


 どうせ結果はまたいろんな人を不幸にしてしまうのではないか。


 でも、こんな人生にしてくれた神に文句の一つでも入れてみたい。


 そうだ、ほしくもない試練やら幸運でこれまで雷やら炎やらでさんざんな目に合ってきた。


 気づいたらピューラの差し出す手を取っていた....結局口ではああいってもこのまま死ぬのは嫌だったのだ。




 ピューラは手をとられたことに満足した様子で微笑む。




 「よし!じゃあ今日からフォルは私と一心同体ってことで、もし裏切ったら…」




 変なところで話を切るのでフォルは聞き返す。




 「裏切ったら...?」




 「裏切ったら、めった刺しにして髪の毛の一本もなこらないほど消し炭に焼き殺してあげる」




 「ひっ!!」




 笑顔でそんなことを言うピューラにフォルは思わずとった手を離し牢屋の隅まで引き、少しピューラについていく決断をしたことを後悔するのであった。

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