第二話
二、三度目かの脱走が失敗した時フォルの逃げ出す意思は摩耗しきった。
今日も
「ほら、さっさと入れ!」
男の修道士に背中を蹴られ強制的に牢に入れられる。
もう教会内にフォルが生み出す利益の味を知らない者はおらず、この男も司祭の息がかかった者だ。
最近はフォルが逃げる意思を喪失したのを察したのか今はもう足に鎖を付けなくなった。
「‟───────”」
フォルは過酷なショーでひどくやつれ、純粋で明るかった性格は見る影もなく、透き通って蒼かった眼も今は陰を落とし濁ってしまった。
◇
司祭は今日のショーが終わり、新造した教会の屋根裏の自身の部屋で一息ついていた。
「ふふ今日も儲かった、祝福された子のショーの人気はうなぎのぼり、聞けば隣町まで広まってるらしいじゃないか、これでこの教会..いや私は祝福を見出したことで名声が高まる本部からの昇進の声ももうすぐだな。まさにフォルは私にとっての祝福だな!」
そう自分が手に入れた祝福をかみしめながら今日手に入った金でどう豪遊するか考えていると
ドンドンというあわただしさを感じるドアのノックとともに中年のシスターが訪ねてきた。
「司祭様!また‟あの子”がしでかしました!今度という今度はもう許せません!祈りの間へ来てください!」
「はぁ....またピューラか」
ピューラ、この争いが絶えない大陸ではさして珍しくない戦争孤児で町で食べるために盗みをしてところつかまって暴行されていた場面に出くわした司祭が引き取った赤毛の少女。
引き取った後も神への信仰心も低く何かと問題を起こす子供で難度も折檻を受けていた。
ピューラについて振り返りつつ祈りの間についた司祭はその光景に絶句し叫んだ。
「な、な、なんてこと....!!」
「祈りの間」それはオーベス教徒が2神を敬仰し祝福への感謝とさらなる祝福を祈る神聖な場所。
しかし、司祭の眼に入ってきたのは、ステンドグラスは破壊され、壁に施された壁画は何かとがったものでひっかいたような傷まみれ、部屋の奥に設置された筋骨隆々なへ―レス神と落ち着いた、まさに聖母のようなクレイ神をかたどった石像は両方頭部を破壊され、へ―レス神像の体には子供が書いた拙い文字で「クソやろう」と書かれていた。
罰当たりな光景過ぎて一瞬腰が抜けそうになったが怒りがこみ上げてきて司祭はピューラに詰め寄る。
ピューラは先に発見したシスターに仕置きされたのか体のところどころにあざができている。
「ピューラよ、何か弁明の言葉はあるか?」
すぐにでも折檻をしてやりたいが堪えて弁明の言葉を求めるとピューラが小声で何かつぶやく
「ん?なんだもっと聞こえるように言え!」
司祭が強く求めると次は聞こえる声量でピューラは発言した。
「黙れ、金におぼれた生臭やろう...!」
「そうか...お前にはよりきつい折檻が必要なようだな...!!」
完全に切れた司祭はその場で自らピューラに折檻暴行をした...虫の息になるまで。
ピューラが何の抵抗もしなくなったのを見て司祭はフォルを牢に連れて行った修道士に指示を出す。
「いつもどうり地下の牢に閉じ込めておけ!!」
指示を聞いた修道士はピューラを抱えて地下に向かった。
◇
牢の前に着いた修道士はピューラをフォルが入っている同じ牢に投げ入れ司祭から言われた言葉を伝える。
「三日後に司祭様が改心されたか確認にくるそうだそれまで弁解の言葉を考えておくんだな」
言葉を伝え終えた修道士は上へ戻っていった。
「うっ、う~あのクッソ生臭野郎よくもやりやがったなぁ~絶対殺してやる」
修道士がいなくなったのを確認し、あちこちが痛む体を辛そうに起こしピューラは司祭への悪態をついた。
「また来たのかピューラ...今度は何をしたんだい」
毎度折檻を受けては牢に入れられるピューラはフォルにとって唯一の話し相手となっており、親しみすら感じていた。
「あら、いたのね根暗なフォル。祈りの間をめちゃくちゃにしてやったのよ」
教会が新造された後に引き取られたピューラは明るかったフォルを知らない。
「また罰当たりなことを....今度こそ司祭様に殴り殺されちゃうよ?」
「ハッ、罰当たり上等よ、それにあの生臭野郎に様なんてつけないでイライラするわ」
反省の色が見えないピューラに呆れつつフォルは続ける。
「君はこんなことして何が目的なの?次やったら本当に死んじゃうよ?」
「ここを出ていきたいのよ、何をやってもあの
ピューラ―は痛む体もお構いなしに聞いてきたフォルの胸倉をつかみ質問に答えるのであった。
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