第4詩 【牡鹿(おじか)】
山の頭の天辺から
山の胸板を
牡鹿が弥猛に疾走してくる
岡に這い上がり
乾いた岩礁の足首から
二羽豪気な白鳥が飛び立つ
天をば 差し向かう面(つら)で
沼水に陰気な魚影がほつほつ
鱗をゆらして怯え立つ
隠遁に明暮れ 泣き濡(そぼ)ち
雲垣が青くさく拡めき
ますます天を視えなくする
龍胆(えやみぐさ)の 時を うつして……
野末に彼(あ)の牡鹿が入りこんだ
醜草(しこくさ)は胡座(あぐら)を根もとから
好き放題にかいている
夏野が靡く 夏毛がーー
やすらかな 匂い
野分(のわき)だつ 風
山籠りのおとこが 帯を締めずに赤はだかのまんまで 此処へ来る……と
山籠りのおんなが 髪頭(かみかしら)に鳥の尾の髻華(うず)を挿し
薬草を摘みに 山の衿首(えりくび)の凹みに差し入る……と
おとこは視る!一点の 牡鹿の角の脱落を
おんなは視る!一つの 泉の盛んな乳汁を
(ほほ 笑まう にんげんたち)
木の花の咲くところへ
(ほほ 笑まう にんげんたち)
くだける潮騒の記憶の上へ
太陽を透いて みえる
遠く祖先人を
湧き上がる ひかりが
うつしていた
万象が喜んでいる
風が渦を巻く 風が一天を辿る
万象が 喜悦(よろこぶ)
やがて脱落した 鹿の角から
鹿茸(ろくじょう)が 生えるであろう
……ひとは終日(ひねもす) 山の雫を 数えた……
おとこは ふたたび 山に籠る
おんなは ふたたび 山に籠る
牡鹿は山嶺へ 駆けくれる
潸然(さんぜん)とする心臓を震わし
角はまた生える と
復活(おちがえり)を信じながら
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