第93話
私もそうだから、なにも変わらずに、16年も無駄にしてる。
「……、そうなの、かな」
「そうよ、まあ、いまは森山旬の存在に焦り始めただろうけど?」
「旬を利用するってこと…?」
「あら、純粋すぎるあんたが、そんな駆け引き知ってるなんて意外だわ」
さっきの旬の一挙一動を思い出して、また胸がドキドキして。
「まあ、私はなにも言わないけど。この世に男はりっくんだけじゃないのよ」
「うん、…ありがとね」
なにかあったことに気付いているくせに、何も聞かない亜里沙に安心する。
パタン、私の後ろで、部屋のドアが閉まる音がした。ようやく、長かった1日が終わるのだ。
◇
次の日、私と旬は帰りのバスまで一言も話さなかった。
お菓子とジュースがすっかり減って軽くなったバッグは、普通に自分で持ち上げられるようになったし。
バスにあとから乗り込んできた旬に、そっとバッグから出しておいたシャツを返す。
「これ、ありがと…」
「あぁ、忘れてた」
「~~寝る!」
おでこへのキスを思い出して恥ずかしくなり、寝たふりをしてたはずなのに、いつの間にか本当に眠っていた私。
「これからもよろしくな?」
どこかで声がした気がしたけれど、これは夢なのか現実なのか分かる人はたったひとりだけ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます