第93話

私もそうだから、なにも変わらずに、16年も無駄にしてる。



「……、そうなの、かな」


「そうよ、まあ、いまは森山旬の存在に焦り始めただろうけど?」


「旬を利用するってこと…?」


「あら、純粋すぎるあんたが、そんな駆け引き知ってるなんて意外だわ」



さっきの旬の一挙一動を思い出して、また胸がドキドキして。




「まあ、私はなにも言わないけど。この世に男はりっくんだけじゃないのよ」


「うん、…ありがとね」




なにかあったことに気付いているくせに、何も聞かない亜里沙に安心する。



パタン、私の後ろで、部屋のドアが閉まる音がした。ようやく、長かった1日が終わるのだ。





次の日、私と旬は帰りのバスまで一言も話さなかった。


お菓子とジュースがすっかり減って軽くなったバッグは、普通に自分で持ち上げられるようになったし。



バスにあとから乗り込んできた旬に、そっとバッグから出しておいたシャツを返す。



「これ、ありがと…」


「あぁ、忘れてた」


「~~寝る!」



おでこへのキスを思い出して恥ずかしくなり、寝たふりをしてたはずなのに、いつの間にか本当に眠っていた私。



「これからもよろしくな?」



どこかで声がした気がしたけれど、これは夢なのか現実なのか分かる人はたったひとりだけ。

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