第92話


コンコン、部屋をノックすると、すごい勢いでドアが開いて、なにかが突進してきた。



「馬鹿、どこ行ってたの!遅すぎてほんと心配したわ」



私に突進してきたのは亜里沙で、なかなか帰ってこない私を心配してくれたみたい。



「ごめん、ちょっと、迷子…みたいな」


「あんたほんと方向音痴よね…」



さっきの心配の表情とは全く異なり、呆れたような声色の亜里沙が、私が手で握っていたシャツの存在に気付いたようで。




「ふーーん、そういうこと~」


「……ぅ」


「まあ、私はいいと思うけどね、妹って言ってあんたから逃げてる、いまのりっくんよりは」


「逃げてる?」


「逃げてるじゃん。妹って言って自己防衛してる。紗葉に他の男が近づかないようにしてるくせに、自分で手に入れようともしない」




客観的な意見が、胸に刺さる。



私は、陸のなんなんだろう?



もちろん本物の妹になれるはずもないし、なりたくもない。


誰よりも近くにいるはずなのに、本心をお互いに打ち明けてはいない。




この関係が崩れるのが、怖くて。


お兄ちゃんぶりたい陸と子供っぽい私っていう関係は、ありえないくらい自然で、心地よくて、だからこそ進むのが怖いの。

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