第89話

「どうして、あんなことしてくれたの?」


「あんなこと?」


「相手の女の子と話したりとか、面倒だったでしょ?」




いつも寝ている面倒くさがりの森山旬が、あんなことしてくれたのが意外すぎて。




「なんでだと思う?」


「こっちが聞いてるんですけど」


「昔、同じことしてたから」


「同じこと?」


「自分の恋愛のために、他の異性を利用してたってこと。まあ、お前みたいに純粋なやつにはわかんないだろうけど」




自分が純粋なんて思っていないけれど、確かに分からない。


陸と付き合うために、誰かを利用するなんて。




「じゃあ、お前はまたこういう風にいやがらせされても、幼なじみを好きって言えんの?そいつの存在のせいで、自分がつらい目にあっても?」




私を射貫くように、見定めるように、森山旬はまっすぐな視線を向けてくる。眼力に、負けそうになるけれど。




「いやがらせされても、怒られても、なにされても、私は陸のこと、好きだと思う」




これだけは、胸を張って言える。



ストーカーみたいって言われても、恋愛対象として見てもらえなくても、陸が好き。陸から離れるのなんて、想像したこともない。

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