第86話
彼女は、泣いてしまって。
「西内先輩のことがっ、好きなんですっ、私の名前も知らないだろうけど、好きなんです」
いままで聞いた彼女の声の中で、一番大きく響いて、気持ちがこもった告白。それを聞いたら、なんだか責められなくなっちゃって。
「もうしないで…」
私は、これだけをようやく声に出して。
ふたりに背を向け、歩く、歩く、走る。
スリッパの音が響くのなんか気にしないで、部屋着とスリッパのままで、ペットボトルを握りしめ、外に出た。
◇
潮風と、海のにおいと、波の音、空の星。
あ、わたし、スリッパだ。
そっと、宿泊施設の駐車場に脱ぎ捨てる。
砂浜に座ると、今までどこに隠れていたんだろうっていうくらい一気に、涙が溢れ出た。
ぼろぼろぼろ、大粒の涙が、止まらない。
さざ波の音に、足音が混じったその瞬間、ふわっと肩にシャツがかけられて。
「ひとりで走っていくなよ、あぶねえだろ」
「森山旬…」
一瞬だけ、本当に一瞬だけ、陸かと思ってしまった。
陸だったらよかったのに、なんて、そんなことを考えた自分が、最低で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます