第84話

「村岡紗葉のプリント、隠したのお前だろ?」




森山旬がゆっくりとかみしめるように紡いだ言葉は、私のことかもしれない、という妙に確信めいた予感が、当たっていたことを意味していて。




「…っぇ」




ペットボトルを、思わず落としてしまった。


咄嗟に拾い上げたけれどそんなの意味なくて、ふたりの声だけが聴こえていた廊下に大きな音が響く。




「誰かいるのか?」




森山の問いかけは、今度は“話を立ち聞きしていた人”に向けられていて。つまり、私で。



このままここにいることは出来ない。


すぅ、息を吸って、思いっきり吐き出す。


勇気を出してそっと休憩室のそとに出ると、ふたりが息をのんだ音が、確かに聴こえた。




「村岡…?」


「ごめん、盗み聞きしようとしてたわけじゃないんだけど…、聞いちゃった、ごめん」




何故か私が謝り倒す展開。



森山旬の隣にいる気弱そうな女の子は、怯えきった表情で私を見つめてくる。



なんか、私がいじめているみたいだなぁ…。



想像以上の展開に、慌てるを通り越して、すごく冷静になっている自分がいる。

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