第83話

「あ、ミスった…」




コーヒー飲めないのに、間違って押しちゃった。


まあ、亜里沙にあげればいっか。



その隣にあったお茶のボタンを、今度は慎重に押す。


がたん、と大きな音を立てて落ちてきたペットボトルを握ると、手のひらをひんやりと冷やしてくれて。




部屋、戻ろう。そう思って、自動販売機のあった休憩室を出ようとすると廊下に人の気配がして、何故か休憩室から出るのを躊躇した。



耳を澄ませると、会話すらも聞き取れてしまうくらいの静けさが、よかったのか悪かったのか。




「あの、なんですか…」




か細い、女の子の声がする。


えっ、告白…?なんて一瞬思ったのに。




「お前だろ?」




告白にはふさわしくない、とがった口調。女の子の質問の答えではなく、疑問に疑問で返した男の声に聞き覚えがある。




「森山くん…?なにが…?」




か細くて、消えてしまいそうな声の女の子と話していたのは、やっぱり思っていた通り森山旬で。




「アイツに、いやがらせしたの、お前だろ」


「………、」




なんの話?アイツ?嫌がらせ?

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