第82話

あんなに全てがどうでもよさそうな森山が片想いをしていたなんて、想像もつかない。




「うん、でもなんか上手くいかなかったのか、いろいろ遊んでたけどねえ、頭はよかったけど」


「森山くんでもうまくいかないって、どんな女の人なんだろう」


「ね、私も気になる」




えっちゃんが話してくれた、中学時代の森山旬。


盛り上がる女の子たちの熱にあてられて、身体が熱いというか、芯から火照っているような感覚がする。




「私、ちょっと外歩いてくるね」


「紗葉ひとりで大丈夫?ついていこうか?」


「ううん大丈夫、じゃあ行ってきます」




そう言って、部屋を出た瞬間に、ひんやりとした風が、足先から頭まで吹き上げた気がした。




――――涼しくて、気持ちいい。



あまりに火照っていた身体に、夜の静かな冷たさが、染み入るようで。




「あ、自動販売機だ」




ぽつり、零した小さな小さな独り言が、あまりにも響くから、びっくりして口を手で押さえる。


それくらい、静かな空間。


販売機に、ポケットに入れておいた500円をいれて。

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