第70話

「あれ、紗葉荷物それだけ?思ってたより少なかった」


「ううん、私のバッグはあっち…」




私の性格を知っている亜里沙は、私が持っている森山旬のごくごく平均的なバッグを見て、驚いたように言う。



でも私の本当のバッグは森山旬が持っているやつで。



背の高い森山旬が持ってもすごく大きく見えるそれを見て、納得したらしい亜里沙はニヤニヤとした笑みを私に向けてくる。




「森山くんといい感じなんじゃ~ん」


「え、別に、そんなことない」


「いいのいいの。紗葉は昔から、りっくんしか見てなかったけど、外に目を向けるのもいいことよ?」


「ちーがーうー」




必死に否定する私に、まだニヤニヤとした笑みを浮かべたままの亜里沙。



「まあ、がんばって?」


「だから、なにを!」


「新しい恋とかあ~」


「ほんと、そんなんじゃないから!」




本当に、そんなのじゃない。陸じゃない男の人なんて考えられない、って本気で思ってる。それくらい、陸が、私の全てだったの。




「まあ、りっくんも策士だよね」


「…どういうこと?」


「いつかわかるよ、…ほら、まるちゃん呼んでる、行くよ!」




私たちと同じように遅れているくせに、マイペースに歩いている森山旬を走って抜かす。その瞬間、違う風が吹いて。



何かが変わっていくような、そんな予感がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る